たむらぱん・どこにも属さない、でも誰からも愛される唯一無二のポップス

トップバッターとして登場したのは、たむらぱん。彼女は本当に不思議な人で、作詞作曲からアレンジまでを行うシンガーソングライターであり、アイドルをはじめ他アーティストに楽曲を提供する作家であり、ジャケットを手がけるイラストレーターでもある。つまり「ここからここまでがたむらぱんです」という線引 きを一切しない人なのです。

それは彼女が作る音楽にも表れていて、普通ならA→B→Cと順序よく並べるところを、いきなりEからはじめてみたり、Bの次にアルファベットで表現できない絵文字のようなものを持ってきたりする。たむらぱんの楽曲は歌詞にしろメロディにしろアレンジにしろ、そんなふうにある種いびつなかたちをしているのです。そのいびつさが彼女の音楽の肝になっていると思うのですが、それが例えば「通好み」とか「アーティスティック」とかいう閉じた概念に留まることなく、誰の心にもストンと届く大衆性を保っているのがすごい。 

この日のステージでは、数年前にイベントで見た時に比べてコーラスを含むほどの大所帯となったバックバンドが楽曲の世界観をより雄弁に伝えていて、もともと作品のクオリティには定評のあった彼女のパフォーマーとしての進化を強く感じました。またアッパーチューンの連打で着実に盛り上げつつ、心地よい浮遊感と叙情性をたたえた『ラフ』のストレンジな美しさが際立つセットリストも見事。ビジュアル系とアイドルという現在の音楽シーンの中でも特にエッジの立ったジャンルの中で、おそらく初見の人も多かったであろうこの日のオーディエンスにも、その世界観は広く深く愛されていました。