北川景子、黒木華の主演でドラマ化もされた高田郁の時代小説を、角川春樹監督が松本穂香主演で映画化した『みをつくし料理帖』が10月16日から公開される。
享和二年の大坂、仲のいい8歳の澪と野江が大洪水に襲われる。数年後、大洪水で両親を亡くし、野江とも離れ離れになった澪は、江戸で暮らしていた。そして、そば処「つる家」の店主(石坂浩二)に、天性の料理の才能を見いだされた澪は、料理人として働き、さまざまな困難に遭遇しながらも、店の看板料理を生み出していく。一方、野江(奈緒)は吉原一の花魁あさひ太夫となっていた…。
正直なところ、これまでは、角川春樹のプロデューサーとしての才能や功績は認めても、監督としては…、という印象が強かった。ところが、最後の監督作と銘打たれたこの映画は、“現代的な江戸の人情話”として仕上げられ、監督としての彼の最良作だと思った。
けなげさと強さを併せ持ったヒロイン澪を好演した松本の存在も大きいが、角川監督が登場人物の一人一人の個性を生かして、皆を愛らしく撮っているので、容易に感情移入ができる。だから、苦労は多いが、人に恵まれる澪は、決して不幸ではないと思えるのだ。
加えて、澪と野江という対照的な2人の女性の友情、澪と小松原(窪塚洋介)との淡い恋、澪の周囲の人々の点描も秀逸で、江戸と大坂との味付けの違いや、料理の見せ方も面白い。中でも、あさひ太夫と特別な関係にある又次を演じた中村獅童の、いかにも歌舞伎役者らしい所作が粋だった。
また、過去の角川映画に出演したさまざまな俳優たちが顔を見せる。これは、角川映画とも縁が深い、大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』と同じ手法で、彼らが作ってきたさまざまな映画を見てきた者にとっては、その歴史を振り返るような気にさせられて、感慨深いものがあった。
ちなみに、本作の音楽は松任谷正隆、主題歌の作詞・作曲は松任谷由実が担当している。これは角川映画にとっては、大林監督の『時をかける少女』(83)以来だという。(田中雄二)