R指定『日本アブノーマル協会』
藤谷:私が今年の上半期でとりあげたいのは、R指定のミニアルバム『日本アブノーマル協会』。本当にシンプルな「今本人たちがやりたいことを詰めた」という印象を受けました。
R指定的なサブカル愛国的な歌詞でも曲調が現代的だったり、ラップ調でシーンに毒をはく『delete.』からエモーショナルな『スタンド・バイバイ・ミー』だったり、おそらく彼らの「今やりたいこと」が瞬間的にパッケージされている。ミニアルバムという形態に合ってますよね。
山口:R指定ってサウンドのバックグラウンドが広いですよね。
藤谷:バンドとしての地力がしっかりしている。2012年に『アイアムメンヘラ』でメンヘラカルチャーを輸入してきてから、「R指定みたいなバンド」というか、V系シーンにおいてサブカル色のあるメンヘラ風味のバンドは増えましたけど、そういったバンドと一線を画しているのは単純に技術とセンスなのだなと。
高崎:R指定を聴いて、バンドサウンドに対して耳がいい子が増えそう。本作はあんまりシーケンスを使ってないんですね。最近のR指定って、セッションバンドの子たちがコピーできないというか、あれをカッコよく聴かせるのは難しいかも。むしろ皆がコピーしたらシーンの技術の底上げが行われるのでは。
山口:「メンヘラ」と聞くと、なんとなく閉塞的なイメージが浮かびがちですけど、曲によっては、島国というよりは大陸というか、細々やるというよりはドーン!といく感じもあって、小さくまとまっていない感じもいいですよね。
藤谷:ヴィジュアル系という枠からは外れずにいろんな要素を詰め込むことに関しては、もはや職人的な域ですよ。サブカルチャーのサイゼリヤというか、いろんな味がある低価格帯のファミレスみたいな……褒めてますよ! あくなき企業努力を感じる1枚です。あとこのCD、ブックレットの表紙と本文の紙質が違うんです。特装版とかではなくて、そういう「ちょっとしたこだわり」がいいなと。
山口:CDで出す意味っていうのはそういうところにも出てきますよね。
ASH DA HERO『A』
高崎:1枚目から出していいのやら……、ヴ、ヴィジュアル系に入るかどうかわかりませんが……。
藤谷:「VISUAL JAPAN SUMMIT」に出ていたので本記事ではヴィジュアル系とします。
高崎:ASH DA HEROの良さを端的に表現すると、色んな価値観のある世の中で、ロックンロールを真剣に信じている、その力で君たちを救うというスタンスなんですよ。
ロックで世界を救いたい、スタジアム・ロックで大衆を幸せにしたい。みたいなのが基本軸にあるんです。キュウソネコカミやback numberのような身近な世界を歌うロックバンドが増えている中で、このスケール感はすごいなあと。
藤谷:時代錯誤と思われても構わない潔さがありますよね。
高崎:いろんなロックスターへのリスペクトとかオマージュを感じて、『アベンジャーズ』みたいな贅沢なごった煮感があります。でも、パワーボーカルだから、何を歌ってもASH DA HEROになる。
山口:曲によって声色を変えているけど、全部「ASHさん」ですもんね。そこは本当にすごいと思います。スタジアム・ロックをやろうとしている気概もかっこいいし。
高崎:恥ずかしげもなくやってるのが良いんです。歌心が爆発的にある人。西川貴教やDAIGOのような、タレント性のあるボーカリストって最近いないじゃないですか。
このアルバムの中に『ラブソング』っていう曲があるんですけど、これがですね、失恋の曲なんですけど、まるでさだまさしの『関白宣言』かっつーような、語りかけるような感じで、主人公の元カノが見えるような曲なんですよ……。こうやって響かせるような曲を歌える人は中々いませんよ。歌声、ホントに歌心がある。