クリスマスの夜の夢の物語を描くバレエ『くるみ割り人形』の、上演ラッシュの季節だ。新国立劇場バレエ団で『くるみ割り人形』の王子役を演じている井澤駿、奥村康祐、渡邊峻郁ら3人のプリンシパルが、その魅力を語った。
「新国立劇場のヴァージョンの王子は、主人公クララが初めて会う年上の男性。彼女の憧れが夢の世界から飛び出してきた、そんな存在なのです」と話す渡邊。同劇場が2017年より上演しているヴァージョンは、ウエイン・イーグリングによる独創的かつドラマティックな演出で人気だ。王子役のダンサーは、クララにくるみ割り人形を贈るドロッセルマイヤーの甥と、くるみ割り人形、王子の3役を演じ分け、少女の夢にずっと寄り添う──。
その演技について奥村は「クララは、人形が好きな少女と、現実の男性を愛する大人の女性とのはざまにいる。彼女が大人になりかけた瞬間、その一瞬の独特の空気を出したい」と語る。井澤も「理想的な王子を演じなければ」と抱負を語りつつ、「この役は本当に休むところがなく、常に動いている。衣裳の早替えでは次の場面に間に合わなくなりそうになったことも(笑)」と体力的にハードな役柄であることも明かす。
しかも3人とも、別日程ではねずみの王様としても登場。見た目は怖いけれど、「ドジをしたり、戦う相手を見失ったり(笑)」(奥村)と、アドリブを混えた愉快で見応えある戦闘シーンを期待させる。
日本でもクリスマス・シーズンの風物詩として定着している作品だが、欧州で活躍した経験のある渡邊は、「劇場前のクリスマス・マーケットで楽しそうにしている子供たちをよく見かけました。皆そこから劇場に足を運ぶ伝統があり、僕もワクワクしながら本番に向かった。日本の皆さんも、この時期だけの特別な空気を感じていただけたら」という。前回の『ドン・キホーテ』に続いて、舞台映像の有料配信も実施されるが、「それによってより多くの人に親しんでいただけるようになれば! 『くるみ割り人形』のチャイコフスキーの音楽はご存じの方が多いけれど、この機会に、バレエとともに演奏される、この音楽の本来の姿を体験していただきたい」と奥村。井澤も「リアルで立体的なセットはこの劇場ならでは。気球も登場する豪華さ! ここでしか味わえない雰囲気をぜひ楽しんでください」とアピールした。
公演は12月12日(土)~20日(日)、新国立劇場オペラパレスにて。チケットは発売中。
文:加藤智子