多村玲を演じる広末涼子

 バブル経済崩壊後の1996 年、経営破綻した住宅金融専門会社(住専)の不良債権回収を目的に設立された国策会社「住宅金融債権管理機構」。その中でも、特に悪質な債務者への取り立てを担当したのが、不良債権特別回収部、通称“トッカイ”だ。1月17日からWOWOWで放送が開始された開局30周年記念「連続ドラマW トッカイ ~不良債権特別回収部~」(全12話)は、清武英利のノンフィクション『トッカイ不良債権特別回収部』を原作に、逆境に立ち向かうトッカイ職員たちの闘いを描く物語。本作で、トッカイのメンバー、多村玲を演じる広末涼子が、一筋縄ではいかなかった役作りの裏話や撮影の舞台裏を語ってくれた。

-バブル崩壊後の90年代を舞台にした物語ですが、どんな印象を?

 以前、『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』(06)というバブル期を舞台にした映画に出演したのですが、バブルの時期については、「道端でお札を振って、タクシーを捕まえる」みたいなイメージはありました。この作品に入る前に、当時の「トッカイ」を取材したドキュメンタリーを拝見しました。バブル崩壊後、こんなふうに市民に寄り添って不良債権回収のために闘っていたという事実を初めて知りました。

-確かに、あまり知られていない出来事ですね。

 トッカイのチームも、銀行員であったり、“奪り駒(とりごま)”と呼ばれる破綻した元住専の社員たちの集まりです。そういう人たちが、正義感と現実のはざまとで葛藤しながら闘う群像劇なので、誰もがグッとくるものがあるんじゃないかな…と。

-本作は金融関係の専門用語も多く、演じる上では難しさもあったと思いますが…。

 専門用語も多いし、なじみのない時代背景だったので、最初は不安がありました。せりふも今まで口にしたことのない言葉ばかりなので…、いくら完璧に覚えても、ちょっと緊張すると、自分の理想とは違う音になってしまったり、リズムが変わってしまったり…。そんなことは今まであまりなかったので、クランクインして数日間は、すごく不安で悔しくて、夜も気になって目が覚めてしまったぐらいでした(笑)。今までは、台本も割とすぐに覚えられましたし、最初に台本を読んだ感覚を大事にして演じたいタイプなので、あえて何度も読まないようにしていました。だけど、この作品はそれでは無理でした(笑)。だから今回は、家庭と仕事をひっくるめて、生活のプランを見直すことにしました。

-というと?

 今までは、仕事を家に持ち込まないようにしていたんです。でも今回は、2、3日は反復して体に入れておかないと、せりふが自分の言葉として出てこなくて…料理しながらや、ゲームをしている子どもたちの後ろで練習していました。金融業界のど真ん中で闘っている人たちの話なので、こっちも本気で取り組まないと駄目だと改めて思いました。でも、そうやってブツブツ言っていたら「ママが一人でしゃべっている。どうしたの?」と子どもたちに変な顔で見られました(笑)。

-今までとは違ったご苦労があったわけですね。

 ただ、これから年齢とともに演じられる役の幅を広げていくという意味では、すごくいい経験をさせていただけたと思っています。

-そんな意気込みで演じる多村玲という役を、どんなふうに捉えていますか。

 トッカイに来る前、転職先を探していた玲が、上司から「永久就職すればいいじゃないか」と言われる場面があります。今だったらパワハラやセクハラで問題になりそうなことが、当たり前で通っていた時代です。そんな時代に、男性に混じって働く女性を演じる責任の大切さはひしひしと感じています。そういう意味では、意志の強さや聡明さ、男性に負けない芯の強さは持っていきたいと思いました。

-その一方で、玲が同僚の葉山将人(中山優馬)と牛丼屋で何度か遭遇するシーンは、職場とは違った肩の力を抜ける雰囲気がありますね。

 全体的に緊張感のある作品なので、若松(節朗)監督が一息つけるシーンを作りたかったんでしょうね。中山さんは、実年齢よりかなり上の役を演じていました。終盤、東坊(平蔵/橋爪功)さんとのすごくいいシーンがあるんです。「私がやりたい!」と思ったぐらい(笑)。大変だったと思いますが、気持ちでぶつかっているのが印象的でした。

-撮影現場の雰囲気はいかがでしたか。

 今回は、出演者の中で私が二番目に若いという、最近なかなかない現場なので、ありがたいです(笑)。伊藤(英明/柴崎 朗役)さんとは久しぶりですが、周りに主演のプレッシャーを感じさせることもなく、真っすぐ、一生懸命に役に向かっていますし、いい意味で緊張感があります。私に直接的にアドバイスを下さるわけではありませんが、矢島(健一/岩永寿志役)さんや萩原(聖人/塚野智彦役)さんは、カッコいい背中を見せてくださっています。

-その中で、特に印象的だったことは?

 橋爪さんが、みんなを一喝するシーンは圧巻でした。せりふの量もすごいのに、声も通るし、リズムも絶妙だし、本当に素晴らしくて…。難しいせりふをたくさん言っているのに、すんなり体になじむお話をされる方です。カットがかかった瞬間、思わず「カッコいい!」と声が出てしまいました(笑)。役者には、スキルや技術とは違った、これまで長く演じてきた厚みみたいなものが出ると改めて思いました。

-最後に、この作品に懸ける意気込みを。

 今は、コロナ禍で仕事のやり方も変わってきていますが、一体感を持って何かを達成することの大切さを改めて感じるような、熱い男のドラマになるといいなと思っています。共演者の皆さんとも、勢いや情熱だけではない「静かな熱さを持ったドラマになればいいね」と話しています。きっと、1年の初めにふさわしい大人の方たちが楽しめる作品になると思います。

(取材・文・写真/井上健一)