パリ・オペラ座の元エトワールの中でも、特に名演の数々が記憶に残る大スター、マニュエル・ルグリ。そんな彼がオペラ座引退後、ウィーン国立歌劇場の芸術監督に就任して早8年、その間にウィーンは、彼の手腕で格段に良いバレエカンパニーに成長したように見える。芸術監督としても素晴らしい彼が、信頼を置くダンサーたちをセレクトし、彼自身も新作を含め踊るというこのガラ、期待に胸を膨らませながら大阪・フェスティバルホールに向かった。
まず実感したのは、美しい脚のダンサー達ばかり、ということ。ベテランから新人まで男女ともに脚の甲が美しい、小さなパでもポーズでも惚れ惚れするライン。そこにそれぞれの魅力、表現が加わる。ルグリが選ぶダンサーは、まず、そうでないと、ということなのだろう。
演目は、クラシックから現代作品までバランスの取れた構成。大阪で上演されたのはAプロで、幕開けは、昨年ルグリが全幕振付を手掛けた『海賊』よりオダリスク。ウィーンの若手、ニキーシャ・フォゴ、ナターシャ・マイヤー、芝本梨花子の3人が踊った。肌の色が違う3人がメソッドに正確に、揃った魅力を伸びやかに見せたのに、世界の平和を願うヨーロッパの知性を感じるような気がしたのは私だけだろうか。
同じルグリの『海賊』から第2幕のアダージョを英国ロイヤル・バレエのマリアネラ・ヌニェスとワディム・ムンタギロフが。恋人たちの幸せが劇場じゅうにフワーッと広がるようだった。
『グラン・パ・クラシック』は、ボリショイ・バレエのオルガ・スミルノワとセミョーン・チュージン。余裕を持った高テクニックに、優雅なたたずまい。今回、出演者達は早めに大阪入りしてルグリとともにリハーサルを重ねたと聞くが、パリ・オペラ座の香りが伝えられているように感じられた。
そして、ルグリ。イザベル・ゲランとの『フェアウェル・ワルツ』は、終わりを意識した男女の切ない感情を深みを持って。また、ローラン・プティの『アルルの女』より、もゲランと。心を病んだ男性と献身的に寄り添う女性──言葉がないからこその、静かな感情の起伏がじみじみと客席に伝わった。
最後は、世界初演のルグリのソロ『Moment』。J.S.バッハの曲(F.ブゾーニ編曲のものも)に、ナタリア・ホレツナが振り付け、滝澤志野の生ピアノ演奏で。まるで、今の彼そのものを踊るような……確かなバレエのメソッドで作られた身体だからこその動き、それが途中、それを捨てて自由に、そしてまた……。身につけたものは、脱ぎ捨てても、また着ることができる衣服のよう。
踊り重ねたからこそ表現できる境地、そんな風に思えるルグリの踊った3演目だった。東京だけのBプロでは、ルグリはローラン・プティの『アルルの女』にかわって『ランデヴー』を、豪華ゲスト達の演目も変わり、そちらも期待出来る。
東京公演は8月22日(火)から25日(金)まで東京文化会館 大ホールにて。チケット発売中。当日券は各開演1時間前から会場にて販売。
取材・文:菘(すずな)あつこ(舞踊評論家)