大野和士 撮影:鹿摩隆司 提供:新国立劇場

新国立劇場の2021/2022シーズン(2021年10月~2022年7月)のオペラ公演ライナップが発表され、芸術監督の大野和士が会見に臨んだ(3月2日・新国立劇場オペラパレス・ホワイエ)。
演目は10演目全45公演。うち新制作が4演目で、ロッシーニ《チェネレントラ》(2021年10月)、ワーグナー《ニュルンベルクのマイスタージンガー》(同11~12月)、グルック《オルフェオとエウリディーチェ》(2022年5月)、ドビュッシー《ペレアスとメリザンド》(同7月)というラインナップ。
大野は、この4本をある流れで括れることに「ピンと来た」という。会見で語ったのは以下のような内容。
グルックといえば「オペラ改革」。装飾的な声の名技性に偏りがちだった18世紀のバロック・オペラは、グルック以降、ドラマを重視し、音楽と言葉が結びついたオペラへと変貌していく。19世紀に入って、その精神を継承した一人がワーグナーで、ドイツのためのドイツ語のオペラは頂点を迎える。一方でそれ以前にロッシーニが書いていたオペラは、より人間的な、19世紀の庶民の「個人」を確立しているという意味で現代の私たちとつながっている。
ワーグナーに心酔していたドビュッシーは、やがてそのドイツ・オペラのあり方から離反し、グルックの改革をも否定する。大野は、たとえばワーグナーの《トリスタンとイゾルデ》で、延々1時間もかけて描かれた愛の表出が、フランス・オペラの金字塔である《ペレアスとメリザンド》では、たったひとこと「Je t'aime」で描かれていることを象徴的な例として挙げた。
オペラにおける「真実」の変遷といえばいいだろうか。新制作4本に、大野芸術監督はそんな連環を見出しているようだ。
《チェネレントラ》はイタリアの巨匠マウリツィオ・ベニーニの指揮、粟國淳の演出。主役アンジェリーナを脇園彩が演じる。
大野自身が指揮する《ニュルンベルクのマイスタージンガー》は、イエンス=ダニエル・ヘルツォークの演出。昨年夏に予定されていた「オペラの夏の祭典」のプロダクションで、ザルツブルク・イースター音楽祭、ザクセン州立歌劇場、そして東京文化会館との国際共同制作だ。昨年予定されていたキャストとまったく同じキャストでの上演を、大野は「奇跡的」と語った。
《オルフェオとエウリディーチェ》は鈴木優人指揮、勅使川原三郎演出の初顔合わせ。(ダンスのない)ウィーン版と、改訂された(バレエ曲のある)パリ版をミックスした上演で、勅使川原だけにダンスの要素が大いに期待される。
シーズン掉尾を飾る《ペレアスとメリザンド》も大野の指揮。どちらかというと脇役であるペレアスの母親ジュヌヴィエーヴを、大野監督自身が直電で依頼したという浜田理恵が初役で歌う。
他のレパートリー演目にもそれぞれに適役を得た。コロナとの兼ね合いが気がかりだが、予定どおりの上演を心から願う。

(宮本明)