国内での世代間復讐みたいなものが、いろんなところで起きるんじゃないかな
会田 「でもそこら辺も君たちは勘でわかってるんだと思うよ。団塊の世代あたりの人たちのプライドを、根っこの部分でグチャグチャにしてる感じ。ここ(取材を行った“CP”のネオンサイン展示)で流れているBGMもそうだよね。パルコの背負ってる文化って基本「アメリカのバカ!」って言うか、そもそも“パルコ”って言葉もイタリア語でしょ? イメージとしてはゴダールとかタルコフスキーとか、ヨーロッパのインテリ映画って感じ。それなのにクイーンとか、『地獄の黙示録』のサントラとかを流してて、陵辱だよこれ! ひどい拷問だよ(笑)。でもChim↑Pomはそういうのを無意識レベルでわかってるんだと思うよ」
岡田 「この作品はかなり最初の方にアイデアが出ましたね。あの巨大なネオンサインのスペクタクル感を狭い部屋で壮大なBGMと供に体感してもらいたかったんです。『蛍の光』もBGMで使ってるんですけど、お店ではよく閉店間際に流れてきますよね。聞きようによっては単なるBGMの域を超えて終末観がハンパないですし。パルコという一個体にとっての“メメントモリ”みたいな感じですかね。派手な表向きとは裏腹に、いい感じの時ばかりじゃないでしょうしね」
会田 「なんか深窓の令嬢を縛り上げてコチョコチョしてる感じ(笑)。痛々しいもん。なんか、80年代がかわいそう。いじめられてる80年代(笑)。でも、いじめられてもしょうがないんだよね。バブルで浮かれていまのこの日本を作っちゃった僕たちは、君らに復讐されてしょうがないとも、確かに思う。これからもそういうモチベーションは、至るところであると思いますよ。僕や、僕の上の世代のせいでいまの世界がこうなったっていう、国内での世代間復讐みたいなものが、いろんなところで起きるんじゃないかな。それを僕たちは受けて当然だと思うし。まあ面白いから、Chim↑Pomに限らずみんなやればいいと思いますよ。
で、自分がこういう発言をするっていうのは、僕は青春時代がすごく暗かったから、自分の中では多少その罪を逃れてると思ってるんです。80年代の若者として、いい気になって浮かれて生きられずに、「なんて時代だ」と思ってイライラしながら日陰にいた青春時代なので、いまの若者の苛立ちと同調して文句を言う権利があると、ちょっと思ってるんですけどね。だから僕にもちょっと復讐の気分はあります(笑)。でも例えばサラリーマンがいっぱい死んでる絵とか、僕の復讐って間接的なあのくらいのカワイイもんですけど」
岡田 「僕らはどこかに復讐したいっていうのはないですけど、パルコだけじゃなくて渋谷の街を見た時に、パッと見すごい楽しいはずの街じゃないですか。なんか歓迎ムードでいっぱいだし。でもよく見てみると街中には広告しかなかったりするし、実は全然面白くないんじゃないかって。俺なんて、渋谷に来ても基本たばこ吸うしかないみたいな感じになりますけどね。それはそれでしょうもない話ですけど。今回パルコと一緒にできる機会が与えられて、これだけのことができたので、もっと違う事色々みんなやれるはずじゃんって思いますね」
会田 「従順な消費者と商売人だけじゃつまらん、ということね」
稲岡 「いまの渋谷って、若い人やいろんな人がたくさん集まってるのに、目につく面白いことが常に消費をともなってる気がして。それこそテーマパークみたいな。それはそれでもちろん面白いけど、あくまで良識の範囲内の面白さで。でも、いろんな所からいろんな思いで人が集まってるこういう場所で、本当に面白いのってそこじゃあないとも思っていて」
岡田 「実際、居酒屋とカラオケしか行かないもんね、渋谷に来ても」
インスタレーション 展示風景:「Chim↑Pom」パルコミュージアム、2012 撮影=森田兼次
© Chim↑Pom 写真提供=無人島プロダクション
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会田 「もしかしたら戦後間もない浅草とかのほうが、来てる人たちの“自発性”で街が動いてたのかもしれないですね。資本と商売でコントロールされてるんじゃなくて。Chim↑Pomってやはり左翼っていうのがキーワードだと思うけどね。君らの世代って普通に生きてたら、資本主義も社会主義も別に気にしないと思うんだけど、ネットでは叩かれるのにパルコに呼ばれたりする、そういう特殊な若者像のキーワードはやっぱり……まだ日本の空中に破片として漂っている、ある種の左翼性なんじゃないかな。それが多分面白いんだよね、うまく言えないけど。そういう意味でも今回の展示は面白いね。70年代から続いてきた東京の持つなにかを刺激する表現になっている。僕がそれをやるのは別に普通だけど、それを若造がやるのが、なお屈折してる」
岡田 「それなりにパルコの影響力がわかった上でそこの力学を利用しつつ製作してはいるんですけど、デパート産業が斜陽に差し掛かってるって言われてますし、選択肢も多くなってきている中で、かつてのように絶対的な存在ではなくなっているとは思います。だからこそフラットに見てやれるみたいな。でもなんでここまでやらせてくれたのか、正直わかんないですけどね(笑)。「えっ!? いいんっすか?」っていう。ハードルの高いアイデアを説得するストレスも全然なかったくらいだったし」
会田 「Chim↑Pomのそういうスタンスをわかってて白羽の矢を立てるパルコっていう、その互いの緊張関係が面白いよね。僕はそういうのは無くて、今度の展覧会も「森美術館でやるから」みたいな気負いは無いです! ……でも少なくとも君らふたりは、パルコって企業の複雑さを本当にわかってないよね」
岡田 「すいません。Wikipediaで調べます(笑)」
会田 「まあ僕もちゃんと知ってるわけじゃないけど、金儲けが目的のくせに、そうじゃない相反するものをモチベーションにしている、屈折した企業としてのパルコや西武っていうものがあって。そういうDNAがまだ続いてて、今回のChim↑Pomの抜擢があることは、おじさんたちの目から見たら明らかなんだよね」
岡田 「僕らはそういうのを情報として知ってるくらいなんですよね」