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Chim↑Pomの結成当初から親交のある両者。11月に公開されるドキュメンタリー映画『駄作の中にだけ俺がいる』では、1枚の絵に長い時間向き合い続ける会田さんの姿が克明に描かれているが、それぞれワンアンドオンリーな表現を生み出し続ける中で、互いの作品や活動に刺激される部分はあるのだろうか。
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会田 「いや、別に特に……君ら勝手に作ってるだろ? 僕も勝手に作ってるし。Chim↑Pomと自分はかぶるところがほぼないので、彼らの展覧会を見ていても気持ちがいいですね。特に今回の展示は「自分もやりたかったのに、先にやられた」っていう部分がひとつもない(笑)。パルコの看板を外そうとかいうモチベーションなんか、自分には本当にないしね」

岡田 「なんかその言い方だと褒められてる感じがしないですけど(笑)。僕らと会田さんとでは持ってるものが違いますからね。まず、僕らは特別なスキルを持ってるわけじゃないですし。かつて僕は会田さんが講師を務めていた美学校っていうアート系の私塾に通っていたんですが、そこでの会田さんの授業がひどかった(笑)。特に何かを期待してたわけではないんですが、結果、こうなっちゃったじゃんみたいなところはありますかね。逆に熱心に教育するタイプじゃなくてよかったと思います。現在は普通に会田さんの作品を楽しみにしてる感じですね。ところで映画の中で作っていた絵は、完成したんですか?」

会田 「ああ、あの2枚は完成したよ。森美術館で出す新作はいま作ってるけど……まぁ今回の展示で新作はオマケみたいなもんだから……(笑)。共通点があるとすれば、“正義”みたいなものを想定することをやめてる感じは、多少共通するかもね。僕もChim↑Pomも、この世を良いように導くようなことを具体的にしてるわけではないから、真面目な人が見たら、怒る人もいるんじゃないですか。でも「単純な正義を示すのは違うんじゃないか」という勘と言うか、本能的な部分は多少共有してるんじゃないですかね」

岡田 「わかります。今回の展示で言うと、パルコってぱっと見、やっぱ“正義”じゃないですか。社会的に不穏なことは一切しません!! みたいな。まあどこの企業もそうですけど。と言いつつ、ほんとに悪い奴こそ正義ヅラしてたりするからわからないもんですけど。やっぱ、なんか“正義”っぽいことが多すぎていびつだとは思いますね。人間に備わっているだらしない悪い部分ってあるはずなのに、社会が良くなろうとし過ぎてバランス悪いなと。社会がもっと良くなればいいなとは思いますけど、だらしない部分も含んでの“良い”ですから、その考え自体が社会悪とみなされたりしますよね」

稲岡 「パルコが今回このタイミングで余裕というか、良い意味でだらしない部分を見せれたのはよかったよね。「えっ、何!? 看板取れてるけどっ!!」みたいな。それに自分勝手にばかりやってると「またあいつら好き勝手やってるよ」って言われて終わっちゃうけど、でも面白がる人もいるし引く人もいる中で、パルコがChim↑Pomをやったことで、世間的にもいろんな表現を受け入れる許容量を少し、広げるきっかけになった気がする」 

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最後に、この懇談でもたびたび口にしていた「面白い」という言葉の定義を、それぞれに聞いてみた。
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岡田 「定義って言うと難しいですけど。会田さんもそうだと思うんですけど、僕らの表現ってアートとかをそこまで深く知らなくても、楽しめるものが多いって気がしてますけどね」

稲岡 「Chim↑Pomの場合、最終的に「面白い!」って思うものは一緒ですね。そこにいくまでには、やっぱりそれぞれに趣味や趣向があって、自分が良いなって思うことをみんなに言うけど。極端にそれがでてるやつは、みんなの反応もよくないよね」

岡田 「よく失敗するのは、個人的に盛り上がってるだけで、他のみんなのテンションが全然上がってないやつね」

稲岡 「自分では凄い面白いと思ってるのに、あれっ? 全然ノッてこないな? みたいな。そういうのは大体だめですね」

岡田 「やっぱり人が面白がってくれるって重要なことだと思いますね。そんな天才じゃないんだし、普通に育てば大体認識レベルも同じようなものじゃないですか。他人がわからないようなもの作って、天才っぽいふりしてるアホ天才は信じられませんね。なので、僕らの場合はとりあえずそばにいる他人であるChim↑Pomメンバーのテンションが上がるアイデアを考えることが、面白いことにつながる一番大事なところなんじゃないかと思ってます」

会田 「質問の答えになってるか分からないけど、この世にあって当然なのに、なかったようなものを作るのが、いちばんマシなことだと思っていて。単に突拍子もなかったり変なものでは違くて、“なかった普通”と言うか、“不足してた普通”みたいなものを足してあげる。そういうことで、表現者って重要な仕事をやったってことになると思うんですよね。この世にあって然るべきなのにまだないことの不足って、いつでもどこでもあるはずで。見つけるのは簡単なことじゃないけど、心を少し軽くしてゆらゆらとこの世を見てると、運がいいと気づくなにかがあって。そういうのを見つけるのがお仕事と言うか、社会的責任と言うか、そういうものだと思ってます」

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なぜ彼らが、常に刺激的な作品を作り続けることができるのか。その秘密の一端が垣間見えたインタビューになったと思う。ただ今回交わされた会話はあくまでヒントであって、彼らの表現の面白さを感じる方法はただひとつ、現場に足を運び、作品を体感する以外にない。Chim↑Pomと会田誠、異なる世代から発信される唯一無二の「面白さ」を、この機会にぜひ体感してほしい。
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Chim↑Pom PAVILION 2012 ネオンサイン 展示風景:「Chim↑Pom」渋谷パルコ、パルコミュージアム、2012 撮影=森田兼次 © Chim↑Pom / 株式会社パルコ 写真提供=株式会社パルコ、無人島プロダクション

『Chim↑Pom展』
会場/パルコミュージアム(渋谷パルコ・パート1・3F)
会期/開催中~10月14日(日)
パルコミュージアム:https://www.parco-art.com/
Chim↑Pom:https://chimpom.jp/
無人島プロダクション:https://www.mujin-to.com/

 

 

 

 

会田 誠 《滝の絵》 2007-10年 アクリル絵具、キャンバス 439×272 cm 国立国際美術館蔵、大阪 Courtesy: Mizuma Art Gallery

『会田誠展:天才でごめんなさい』

会場/森美術館 東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53 階
会期/2012 年11月17日(土)~2013年3月31日(日)
森美術館:https://www.mori.art.museum/jp/index.html

 

 

 

 


 
 
 

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『駄作の中にだけ俺がいる』
公開/11月10日(土)~
【東京】ユーロスペース/【新潟】シネ・ウインドほか順次公開