小野政次(高橋一生)が壮絶な最期を遂げた第33回に続き、第34回では龍雲丸(柳楽優弥)率いる龍雲党が壊滅。一時は直虎(柴咲コウ)までもが正気を失うなどここ数回、ハードな展開が続いた「おんな城主 直虎」。
固唾(かたず)を飲んで見守っていた視聴者も、南渓和尚(小林薫)と龍雲丸のユーモラスなやり取り、井伊家の人々による“政次物まね大会”が見られた第35回(9月3日放送)に、ほっと胸をなでおろしたに違いない。
だが、ドラマが最高潮の盛り上がりを見せる一方で、毎回の視聴率報道に悔しい思いを抱いているのは、筆者だけではないだろう。数字は数字として事実ではあるものの、それだけでは視聴者の高い熱量が伝わらないと感じるからだ。
それは、例えば、NHK総合で放送中の日曜午後8時台に、twitterのハッシュタグ「#おんな城主直虎」を検索してみれば分かる。第33回放送後には、政次の死に衝撃を受けた視聴者のツイートが怒濤(どとう)のごとくあふれ、その勢いは翌日になっても収まらなかったほど。
第35回では、井伊谷を追われた人々の元気な姿に「癒やされる」、「和む」などの言葉が相次いだ。いずれも、作品への愛にあふれたツイートばかりだ。
そういった反応は、twitterばかりではない。筆者が執筆してきた「直虎」関連のコラムや出演者インタビューについても、Yahoo!のコメントなどを見ると、序盤に比べて確実にリアクションが良くなってきている。
そこには、単なる視聴者ではなく、「ファン」と呼べる層が生まれている手応えが感じられる。そうでなければ、小野政次追悼CD「緊急特盤 鶴のうた」が発売されることもなかったはずだ。しかも、注文殺到により追加生産され、オリコンの9月7日付デイリーアルバムランキングで1位を獲得するほどの人気ぶり。発売は8月23日だったが、筆者の手元にも今週ようやく届いたところだ。
低視聴率と言われながらも、SNS経由でファンの心をつかんだ大河ドラマ。この言葉から、2012年の「平清盛」を思い出す人もいるだろう。「平清盛」も、毎回のように“低視聴率”を話題にされながら、twitter社が発表した「2012年のトレンド」では、「GTO」、「梅ちゃん先生」といった作品を上回るテレビドラマ部門第1位を獲得するなど、熱狂的なファンを生んだ。今年、CS局で再放送が行なわれた際には新規の特番が放送されるなど、いまだに高い人気を誇っている。
「直虎」ファンの熱気は、どこかこの「平清盛」を思い起こさせるところがある。しかも、日本人なら誰もが知っている清盛とは違い、直虎はこれまで無名だった主人公。それがこれほど熱い支持を受けているのは、スタッフや出演者が一丸となって作り上げた作品の魅力が伝わったからに他ならない。
現在のファンの熱気を見ていると、「直虎」も今後、末永く愛される作品になるのではないかという予感がする。(パブリックビューイングなどのイベントを行なった「平清盛」のように、「直虎」にもファンと交流する機会があれば、さらに盛り上がると思うのだが…)。
作品の質と視聴率が必ずしも比例しないというのは、今さら言うまでもないことだが、出演者やスタッフには、熱いファンの声援を支えに、最後まで走り切ってほしいと願うばかりだ。(井上健一)