
神奈川フィルハーモニー管弦楽団の2018~2019シーズンのラインナップが決まり、10月16日、横浜市内で、常任指揮者・川瀬賢太郎も出席して発表会見が行なわれた。シーズン・コンセプトは「音楽の道標(みちしるべ)」。音楽が生み出す、生きる力や平和の願いが行く手を照らす。
横浜みなとみらいホールでの定期演奏会は、従来の土曜日午後2時開演はそのまま、7月と11月には、金曜日の夜公演も加えて同一プログラム2公演制を実施する。改修工事を終えた神奈川県民ホールでは新たに「県民ホール名曲シリーズ」をスタート。また会場が来年休館となる「音楽堂シリーズ」の代わりに、客席数400の小空間を生かした「みなとみらい小ホールシリーズ」を開催する。
川瀬は自らの指揮する公演の意図や抱負を語った。
シーズン開幕の4月定期は生誕100年バーンスタイン特集。人気の《ウェスト・サイド・ストーリー》に、政治的序曲《スラヴァ!》と交響曲第1番《エレミア》を組み合わせた。作品に込められた政治や民族の問題は現在も普遍的なテーマ。コンサートホールが、そうした問題を受け取り、「過去を振り返り未来を見つめ直す場になれば」と川瀬。
その思いは10月定期にもつながっている。権代敦彦の《子守歌》(2005)は、2001年の大阪児童無差別殺傷事件の犠牲者の母親の手記を中心に構成された作品。川瀬が名古屋フィルと演奏した際には、半分近い聴衆がショックのあまりコンサート後半を聴けずに帰ったという衝撃作。今回の後半はマーラーの交響曲第4番。終楽章に「天上の生活」が置かれた交響曲だ。選曲は権代の話がヒントになったという。「赤ん坊が生まれてすぐ泣くのは、罪深い世に生まれた絶望のせい。だから若い命が天に召されるのは、神がその罪を取り除いてくれたと考えることもできる」。「天上」を感じてもらいたいと語る。
川瀬は他に、藤村実穂子からの共演オファーに応えたマーラーの《リュッケルトの詩による5つの歌曲集》と、マーラーに大きな影響を与えた不世出の作曲家ハンス・ロット(1858~1884)の交響曲第1番を合わせたプログラムや、満を持して神奈川フィル合唱団とのヴェルディ《レクイエム》を振る。また、新たなみなとみらい小ホールシリーズではストラヴィンスキー《兵士の物語》を指揮(2019年3月)。このシリーズでは7月に鈴木優人が指揮者として登場し、テーマはともにJ.S.バッハとストラヴィンスキー。ここでも「過去を振り返り未来を見つめ直す」が打ち出されている。
特別客演指揮者の小泉和裕は9月定期と2019年1月の県民ホール名曲シリーズに登場。また神奈川フィル初登場のスコットランドの若手指揮者ロリー・マクドナルド(1985年生まれ)や、珍しいトロンボーン「吹き振り」を披露するクリスチャン・リンドバーグなど、注目公演が目白押し。来季も意欲がひしひしと伝わってくる神奈川フィルだ。
取材・文:宮本明