2022年1月8日(日)に上演される東京芸術劇場の「コンサートオペラ」第8弾は、プーランク《人間の声》とビゼー《アルルの女》の2本立て。指揮者の佐藤正治が取材陣を前に抱負を語った(11月16日・東京芸術劇場)。
リヨン国立歌劇場の首席コレペティトールを務めるなど、フランスの劇場で10年のキャリアを持つ佐藤。5回目の登場となるこのシリーズではターゲットを「フランスもの」に絞って取り組んできた。
佐藤「プーランクは大好き。ハーモニーの使い方、人間の内面を描く音の引き出し方が実にうまい」
《人間の声》は登場人物がソプラノ一人だけのモノオペラで、3曲しかないプーランクのオペラの最後の作品。別れた恋人と電話しながら徐々に精神が錯乱し、自ら命を絶つ女。客席の私たちは、彼女の歌だけで電話相手の声や姿、二人の過去の関係までも想像する。
演じるのは近年引く手あまたの森谷真里。あっという間に日本を代表するプリマドンナに駆け上ったライジング・スターだ。
佐藤「複雑な役をどう演じてくれるか。とても楽しみ」
そしてさらなる目玉が《アルルの女》。この劇音楽の本来の姿である芝居付き全曲上演という試みなのだ。日本ではおそらく上演例がないという。
クラシック・ファンなら誰もが知っている名曲だけれど、ほとんどの場合、それはオーケストラ組曲として抜粋された一部の曲にすぎない。フルートとハープで有名な〈メヌエット〉に至っては他のオペラから引用された音楽で、劇音楽の原曲には含まれていない。
佐藤「有名な音楽が戯曲のストーリーと結び付くことで、あ、こういう効果のある音楽だったのか!と感じていただけるはず。芝居付きの上演は、フランスでも目にしたことがない。向こうの友人に今度日本でやるよと話したら、それは面白い、何語でやるんだ?と興味津々だった」
今回は動きのない朗読劇としての上演だが、主演に名優・松重豊を起用しているのが大きな話題を呼んでいる。音楽は全27曲・約45分。フルサイズだと2時間以上になる台本を、佐藤自身の構成と日本語訳で約90分に縮小して上演する。組曲版よりもサイズの小さな、オリジナル・スコアに近い編成で聴けるのも貴重な機会になりそう。管弦楽は佐藤が2005年に創設した手兵のザ・オペラ・バンド。
「初めての試みで、発見も挑戦もある」と期待を口にする佐藤。新年早々、未体験の新しい刺激いっぱいの舞台になりそうだ。
(取材・文:宮本明)