坂下雄一郎監督 (C)エンタメOVO

 地元に根強い支持層を持ち、当選を続ける衆議院議員の秘書を務める谷村(窪田正孝)。ところが、ある日議員が病に倒れたことから、娘の有美(宮沢りえ)が地盤を引き継ぎ選挙に出ることになるが…。事なかれ主義の議員秘書と熱意が空回りする新人候補者による選挙活動の様子をシニカルに描いた政治コメディー『決戦は日曜日』が、1月7日から公開される。本作の坂下雄一郎監督に、映画製作の意図や、コメディー映画へのこだわりなどについて聞いた。

-この題材を映画にしようと思ったきっかけを教えてください。

 まず、クロックワークスの方とお会いして、映画製作のお誘いを受けました。それで、どういうものを作ろうかと考えたときに、普段、接してはいるけれど、その内実はあまり知らないようなものを描く、例えば、伊丹十三監督の作品や、矢口史靖監督の『ハッピーフライト』(08)や『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』(14)のような、お仕事物やハウトゥー物をやってみたいと思いました。調べてみると、企画を立ち上げている当時、選挙に関する企画はあまりなかったので、これはあるのかなと。そういう、ちょっとした計算もありつつ(笑)、興味もあったので、そこから始めました。

-選挙運動のハウトゥー、2世議員の実態、選挙の裏側などが、とてもリアルに描かれていましたが、相当リサーチをしたのでしょうか。

 なるべくお話は聞いた方がいいと思ったので、実際に秘書をされている方を中心に、お話を伺いました。あとは撮影前に、監修の方から脚本に対していろいろとアドバイスを頂きました。

-映画の完成までに5年ぐらいかかったと聞きましたが。

 最初のお誘いからが5年ぐらいです。脚本が3年ぐらい前に形になって、キャスティングは2年前、撮影は1年前から始めて…といった感じです。

-とはいえ、政治の世界は複雑怪奇なので、やっているうちに「これは本当に映画になるのだろうか」とは思いませんでしたか、それとも、逆にどんどん面白く感じるようになっていったのでしょうか。

 懸念だったのが、まだ企画開発をしている時期に、現実に政治家のスキャンダルが幾つかあったことです。それも、映画で描いたら、「そんなことある?」と言われてしまいそうな出来事だったので、映画の中で描いたことに対して、現実はそれどころではないと思われる可能性もあると感じました。ただ、同時に、映画で起こる騒動に対して「こういうこともあるかも」と感じてもらえるという意味では、ハードルは低くなったと思いました。

-主演の窪田正孝さん、宮沢りえさんの印象をお願いします。

 どちらも第一線で活躍されている方なので、最初は、どんな感じなのかなと思いましたが、現場はとても穏やかで、こちらの要望もちゃんと受け入れてくださいました。お二人とも、撮影が始まる直前まで談笑されているのに、始まった瞬間にきちっと切り替えられる。プロとして活躍されている方はこんな感じなんだなと思いました。

-特に宮沢さんは、過激な演技も楽しんで演じているような感じがしましたが。

 すごくひどいことをしても、宮沢さんがやると品があるというか、かわいく見えるところもあって、作品に対してとてもよい影響を与えていただきました。

-選挙事務所の個性的な面々や、後援会、県議会や市議会の人々も、皆、生き生きと描かれていましたね。

 脚本を書いているときに、こういうキャラクターで、というのは考えましたが、キャスティングの段階で候補に挙がったのが個性的な方が多かったので、キャスティングの提案がよかったのだと思います。内田(慈)さんや古市(慢太郎)さんには、僕の前の映画にも出ていただいたので、やりやすかったです。ほかの方も、とても優しい方ばかりだったので…(笑)。

-オープニングの音楽で、『赤ちゃん教育』(38)や『ヒズ・ガール・フライデー』(40)といった、昔のスクリューボールコメディーを意識したとありましたが。

 音楽はクラシックっぽいのがいいと思ったので、音楽担当の方に伝えるときに、イメージとしてそうした映画を例に出しました。昔の映画のように、オープニングは、クラシックな音楽をバックに、タイトルから始まって、出演者とスタッフの名前が流れる形がいいと思ったので。

-クラシックな映画という意味では、新人の田舎議員の活躍を描くフランク・キャプラ監督の『スミス都へ行く』(39)や、大統領の影武者が政治を変えていくアイバン・ライトマン監督の『デーヴ』(93)をほうふつとさせるところもあると感じましたが、そうした映画は参考にしたのでしょうか。

 そうした映画も見てはいますが、意識したのは、最近のアメリカのコメディーや海外ドラマです。脚本を書いている時期に、ちょうど配信で海外ドラマがはやり始めたので、何本か見たのですが、その中の「Veep/ヴィープ」という、アメリカの副大統領とスタッフたちを描いたコメディードラマは参考になりました。あとは、政治も平気で皮肉る「サタデー・ナイト・ライブ」のようなスタンスにも影響を受けていると思います。

-コメディー映画に対するこだわりは何かありますか。

 学生時代に映画を作ろうと思ったときに、たまたまだと思いますが、自分の周りでは割と暗めな映画が多かったんです(笑)。それで、あまり人と重ならない、倍率が低い方でやった方がいいのかなと。自分は明るいコメディーも好きなので、そちらでやってみようかなと。始まりはそういうきっかけです。

-コメディー映画を作るときに、風刺を込めることは意識していますか。

 今回、政治を扱うとなったときに、形としてはホラーかコメディーだなと思いました。でも、自分にはホラーは難しいと思ったので、コメディーにしましたが、候補者が主人公で、意地悪をする嫌な議員が出てきて、最後は候補者が街宣車で熱い演説をして、民衆が拍手をして…みたいなものではないなと。風刺的なやり方をするのであれば、体制側というか、中にいる人間の側から描いた方が皮肉になると感じましたし、物語としても面白くなると思いました。

-観客に向けて、映画の見どころやポイントをお願いします。

 題材が題材なので、政治的要素とエンタメのバランスが結構難しくて悩みました。それと、あまり政治に興味がない人にも見てもらいたいと考えたので、なるべく敷居は下げようと心掛けていました。見ていただけたら、何かしら感じるところはあると思うので、まずは一本の映画として楽しんでいただければと思います。

-次はどんな映画を撮りたいと思っていますか。

 いろいろとあったオリンピックの裏側を撮れたらと思っています。

(取材・文・写真/田中雄二)