ディズニー成人式は「新成人のアイデア」で実現!
──市長在任時に印象的だったのが、東京ディズニーランドでの成人式実現だったと思います。実現に至るまでの経緯や、印象的なエピソードを教えてください。
もともと浦安市の成人式は、市役所の横にある文化会館で行っていました。
当時は100万円の予算で、吉本興業の芸人さんを呼んだりしていたのですが、ホールの中に入りたがらない新成人が多かったのです。
みんな偉い人の長い話や芸を見るよりも、久しぶりに友達と会っておしゃべりしたかったんですよね。
そこで私が市長に就任したときに、新成人が楽しくないと思うものは止めようと提案しました。
来賓の挨拶も市長と市議会議長のみにしたり、時間を短縮したり…。
しかし、市の教育委員会に改善を指示しても、なかなかうまくいかなかった。
そこで「新成人たちに任せてみよう」という話になって、実行委員会を立ち上げることにしたのです。
しかし、実行委員を募集しても、人は集まりませんでした。
そこで、当時の教育長に生きのいい新成人に声をかけるように言ったのです。
それで集まったのが3人の実行委員でした。それが6月か7月のことだったと思います。
その後、実行委員は何度か集まったそうなんですが、一向に案が出てこない。
実は後から聞いた話によると、そのときから彼らは「東京ディズニーランドで成人式をやりたい」と考えていたそうなんです。
しかし、教育委員会の担当者に言っても、どうせ潰されるだろう。
それなら、市長に直談判をしたいというので、教育委員会と実行委員で「市長に会わせて」「会わせない」でずっともめていたそうなんですね。
結局、2か月近く決まらないまま、時間だけが過ぎていきました。
私もしびれを切らして、どうなっているのか聞いたところ、事情が分かり、早速実行委員の子たちと直接会うことにしたのです。
実行委員たちは、なかなか本題を切り出そうとしませんでした。
私が話を切り上げようとしたときに、実行委員の一人がこう言ったのです。
「市長の仕事に、市民の夢を叶える仕事ってありますよね」
この殺し文句の後に続いて出た言葉が、
「私たちはディズニーランドで成人式がしたいんです!」と言われて…。
正直これには参りましたね。
とにかく、オリエンタルランド社に打診するだけしてみようと思いまして、翌々日に加賀見さんに会いに行きました。
当時の成人式は荒れたイメージが強くて、加賀見さんも「即答はできない」という返事でした。
もちろん、こういった決定はオリエンタルランド社単独ではできず、アメリカのディズニー社の許可がいるということで、向こうに連絡してもらうことになったのです。
それから1か月後、加賀見さんに再び会いました。
オリエンタルランド社からディズニー社に打診はしてくれたものの、向こうは「成人式」というものを全然理解してくれなかったんです。
当時の私は、成人式が日本独自の文化であることを知りませんでした。
てっきり中国や韓国などでも、同じような行事をしていると思っていたのですが、違っていたんですね。
「どうして20歳のお祝いを、わざわざディズニーランドでするのか」と、ディズニー社の人間は疑問だったようです。
メディアに情報が漏れるとまずいので、もしできないなら早く決めてくださいと伝えました。
すでに準備期間も短くなっていますし、ディズニーランドが無理ならほかの準備もしなくてはいけないからです。
私が面会した2~3日後、実は加賀見さんは急きょアメリカのワシントンに飛んでくれまして。
詳しい経緯は分からないのですが、ディズニー社に対して政治的な働きかけをしてくれたようでした。
結局、東京ディズニーランドでの成人式開催に許可が下りたのですが、次に問題になったのが、国旗である日の丸の掲揚でした。
ディズニー社は、テーマパークの中は「夢とファンタジーの世界」ということで、現実社会の国旗である日の丸の掲揚を認めてくれなかったんです。
会場になったショーベースには、当時大きなモニターがステージの両脇に設置されていましたので、オリエンタルランド社の担当者から「モニターに日の丸を映すのではどうか」と提案もありました。
しかし、私は断固拒否しました。
成人のお祝いは、20歳になって政治に参加できることをお祝いする意味もある。
だからこそ、日の丸の掲揚は不可欠だと考えていたからです。
最終的には、ディズニー社も折れてくれて、式典に当たる市長と市議会議長の挨拶の場面だけ、国旗と浦安市旗を掲揚することで決着しました。
もちろん、当時の東京ディズニーランドには、そのような旗を立てる台はありません。
知り合いのつてで、インドネシア産の木材が頑丈で重さもあるということで、特注で作ってもらいました。
成人式では印象に残っているエピソードがいくつかあるのですが、一番は初年度にいた男の子ですね。
見た目からしてやんちゃそうな雰囲気で、最前列に陣取り、周囲の様子を伺っていた。
メディアもオリエンタルランド社の警備員も、彼に注目していました。
教育長に聞くと、彼は中学校時代、番長的な存在だったそうです。
しかし、彼は暴れることなく、式は無事に終了。
終わってすぐに彼のもとへ行こうとしたら、メディアがやってきて「どうして暴れなかったんですか? 」と彼にインタビューしてきて。
これには彼も怒りましてね。
カメラマンが慌てて逃げていったのですが、それを見ていた私が声をかけました。
すると、彼は
「今日、成人式に行こうとしたら、3つ下の妹が走ってきて
『お兄ちゃん、今日はとにかく暴れないでね。お兄ちゃんが暴れたら、私がディズニーランドで成人式できなくなっちゃうんだから! 』
って言われたんだ。だから俺は、もし暴れるような奴がいたら、すぐに止めようと思って一番前に座ったんだ」
と言ってくれて…。
これには泣きそうになりましたね。
その後も、荒れた世代が成人式を迎えたときには、当時の中学校の担任の先生を総動員して、手荷物検査をやったり、座席をめぐって殴り合いになりそうだったのを、周りの新成人が止めてくれたりなど、印象的なエピソードはほかにもありました。
成人式はディズニー社からの許可が下りて実現しましたが、それ以外にも浦安市からオリエンタルランド社に提案したものはいくつかあります。
その中でも印象に残っているのが、毎年開催している「東京ベイ浦安シティマラソン」です。
東京ディズニーリゾートの周辺道路をコースにしているのですが、浦安市から「東京ディズニーランドの中をコースに入れてもらえないか」と打診したことがあるのです。
市民からの要望も当然ありました。
しかし、アメリカのテーマパークで行っているマラソンイベントは、ディズニー社が主催するものなんですよね。
市が独自でやっているマラソン大会で、テーマパークをコースに使わせることはできないと、最後までディズニー社の許可は出ませんでした。