かわいい少女が魔法のパワーで人助けしたり、自分の夢や恋を叶えようとしたり――1966年の『魔法使いサリー』から始まった、いわゆる“魔法少女モノ”は今なおアニメ・漫画で代表的なジャンルのひとつだ。今年だけでも、社会現象を巻き起こした『魔法少女まどか☆マギカ』の劇場アニメが公開予定、そして3月には人気シリーズ『魔法少女リリカルなのは』の劇場アニメ3作目、新顔として『Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ』のアニメ製作が立て続けに発表された。
魔女っ子アニメなんて小学生の女子が見るものでしょ……と思っているアナタ、現代の魔法少女モノはむしろ男子向けなのでありますぞ! ということで今回は注目の魔法少女アニメを3つ、予備知識ゼロの人にむけて紹介させていただきたい。記者の主観や若干のネタバレが入ってしまう点はあらかじめご了承を。
衝撃展開でド肝を抜いた『魔法少女まどか☆マギカ』
【みどころ】
・視聴者を絶望に叩き落とすダークな物語展開
・魔法少女アニメのテンプレを逆手に取ったさまざまな作劇ギミック
・腹黒マスコットキャラ、キュウべぇの清々しい外道っぷり
2011年に深夜アニメとしてTV放送され、全12話の短さながら熱狂的なファンを獲得して一大ムーブメントとなった。ブルーレイの初週売り上げはTVアニメ歴代ナンバーワン記録を更新。その後もゲーム、コミカライズ、ノベライズ、さまざまな企業とのタイアップ企画など人気は継続。劇場アニメ公開が前後編で予定されている。メディアへの露出も多く、非オタク層でもタイトルくらいなら知っている人は多いのではないだろうか。
放送当初はストーリー根幹に関わる情報がうまく隠蔽され、一見するとテンプレ通りの魔法少女モノだった。平凡な中学生・まどかが謎の転校生や「キュウべぇ」と名乗る小動物に出会い、この世界には悪い魔女と戦う“魔法少女”がいることを知る。キュウべぇが自分に向けて「僕と契約して魔法少女になってよ!」と勧誘してくる中で、まどかは他の魔法少女たちと関わりながら、どんな決断をするのか……?
こうした初期ストーリーなわけだが、『まどか☆マギカ』はあらゆる点でそのテンプレを打ち破っていく。まず第1話で主人公(ヒロイン)は魔法少女に変身するのが定番パターンだが、本作のまどかはなかなか契約も変身もしない。代わりに彼女は先輩や同級生が魔法少女になり、その力で何を願い、どういう結末に至るのかを見届ける役割を果たしていく。最終的なネタバレは避けるが、視聴者は「いつになったら魔法少女になるんだよ? もう終盤だぞ」とやきもきしながら見守ったものだ。
そもそも、まどかがすぐ魔法少女とならなかったのも、この世界観で“魔法少女になる”ということ自体に途方もないデメリットが隠されていたからだ。願い事が1つ叶えられるのを条件に契約すると、彼女らには過酷すぎる運命が待ち受けている。とりわけ中盤以降のダークすぎる展開は、鬱アニメで鍛えられたオタクたちさえもドン引きさせた。古くからの「魔法少女は自分にも他人にも希望をもたらす存在」というテンプレが、ここでも見事にひっくり返されている。
そしてテンプレ打破の最高峰は、くりくりした目がかわいらしいマスコット(っぽい)キャラ・キュウべぇの存在だろう。普通の魔法少女にも使い魔として鳥や猫などが付いているが、一見そんな感じのキャラである。が、実はこいつがとんでもない食わせ者。「魔法少女になってよ!」と勧誘してくるくせに、その契約の大きすぎるリスクを一切説明しなかったのもコイツだ。マスコットキャラはヒロインを魔法の世界に誘い、よき理解者でアドバイザーである……という先入観をもっていた視聴者は、次々に明かされていくキュウべぇの外道っぷりに驚かされることになる。
こうした従来型の魔法少女アニメに対するアンチテーゼのようなものが作中いたるところに散りばめられているが、決して奇をてらっただけのギミックではない。「魔法少女」や「キュウべぇ」という呼び名の理由も含めて、最終的にはストーリーが見事に一点へ収束する。ストーリーや設定の練り込み、作画クオリティ、音楽、戦闘シーンの演出……すべてが高レベルで、さすが『エヴァンゲリオン』以来の社会現象を起こしたとも言われる作品だけにスキがない。魔法少女というカテゴリで食わず嫌いしていた人にこそ、ぜひ見てほしい逸品だ。