戦時にはプロパガンダ目的のフェイクニュースが溢れる

ウクライナの惨状は痛ましい。情報戦も激しく、プロパガンダの目的でフェイクニュース合戦の様相を呈しているようだ。いったい何を信じればいいのか。最終的には自分で判断するしかないが、情報の受け手として、どうすればいいのだろうか。 例えば、こんなニュースがあった。ウクライナの産院がロシア軍によって攻撃されたという。AP通信は、負傷して脱出する妊婦の映像を配信した。これに対しイギリスのロシア大使館は、妊婦は美容系の有名なブロガーで妊婦を演じているだけだと、暗にフェイクニュースであることを指摘。一方ウクライナの国連大使は、安保理の緊急会合でその妊婦が無事出産したとし、フェイクではないと否定した。どちらが本当なのか。映像も簡単に加工できる時代だ。簡単には判断できない。

戦時のフェイクニュースといえば1991年、湾岸戦争時の「油まみれの水鳥」事件が有名だ。石油目当てにイラクがクウェートに侵攻して始まった戦争で起きた。クウェート沖のペルシャ湾に大量の原油が流れ出たことを受け、当時の米・ブッシュ大統領は、イラク軍が積み出し基地から故意に石油を流出させたとし、環境テロだと非難。ロイターなど複数の通信社がその象徴として油にまみれた水鳥の写真を全世界に配信した。情に訴える画像は多くの人の心を動かし、当時のイラク・フセイン大統領に対して憎しみの感情をかき立てる効果を生んだ。ところが、この画像は後に、原油はアメリカ軍の攻撃で流出したことが判明したという。NHKはじめ各国メディアが伝えた。

株式市場を語るときに使う、ポジショントークという言葉がある。自分が携わる銘柄が、思わく通りに動くよう情報を発信することだ。転じて、利害関係者が自分に有利になるよう発言する際にも使う。意識する、しないにかかわらず、人は往々にして自分に有利な発言をしがちだ。利害関係がある以上、偏った視点で情報が発信されるのは世の常。それが行き過ぎて嘘ともなれば「風説の流布」ということになる。「誰」が、言い換えれば「どんな立場にある者が」その情報を発信しているかは、情報の真偽を見極めるために重要な判断材料になる。

ここに野村総合研究所が2021年に実施した「『フェイクニュース』に関するアンケート」の結果がある。新型コロナウイルス関連で、情報が怪しいと思いながら、情報の真偽を調べなかった(「あまり」「ほとんど」「まったく」「怪しいと思ったことはない」の合計)とする回答が51%と過半を占めた。米国大統領選挙関連では61%にも上った。自分から遠い存在の情報ほど、真偽を調べずに済ませる傾向が強い。現在のウクライナ情勢については、戦争という重大なできごとであるため、より強い関心とともに情報が受け止められていることだろう。しかし、偽情報も戦闘行為の一つ。怪しい情報であったとしても、情報源は少なく、現地で取材できる記者も限られている。真偽の確認は普段よりはるかに困難だ。しかし、すべての情報を鵜呑みにしてしまうのはとても危険だ。

戦時にはフェイクニュースが渦巻くことになる。フェイクを見抜くことは難しいとしても、極めて客観的で用心深い視点が必要だ。どちらの陣営から出されたどんな情報であっても、自ら調べ、考え、常に疑う姿勢を忘れないようにしたい。平和を祈りながら。(BCN・道越一郎)