NHKで好評放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。上総広常(佐藤浩市)が衝撃的な最期を迎えた第15回「足固めの儀式」を境に物語のムードがグッと変わり、このところシビアな展開が続いている。5月8日放送の第18回「壇ノ浦で舞った男」では、いよいよ源平合戦のクライマックス、壇ノ浦の合戦を迎えるが、そんな物語の中で主人公・北条義時はどうなっていくのか。義時役の小栗旬が今後の展望について語ってくれた。
-ここまでの物語を見ていると、北条義時は与えられた仕事を一生懸命にこなす「仕事のできる普通の人」といった印象です。大河ドラマの主人公というと、「自らが何かを成し遂げる」という志や熱意を持って行動するイメージがありますが、義時はそうではありません。そういう一風変わった主人公の義時を描く三谷幸喜さんの脚本の魅力と、小栗さんが演じる上で心掛けていることを教えてください。
そう感じていただけるのであれば、それも三谷さんの脚本の魅力ではないかと思います。確かに、義時は自ら前に出て、こうする、ああする、という人間ではないんですよね。心の奥底には常に「早く伊豆に帰って米の勘定をしたい」という思いがあり、それが一番の楽しみのような人ですから(笑)。でも、そんな人間が、周囲から「どうする?」「おまえどうする?」と言われ続けた結果、自分が動かなければいけなくなり、いろんな人をつなぎ、その間で右往左往することになっている。僕としては、そこが一番面白いところだと思っています。その点、演じる上では、基本的に自分の意見はそれほど持ち込まず、周りの皆さんのお芝居をしっかり受けることを心掛けています。その蓄積の中から、義時のキャラクターが立ってくると思うので。
-そういう意味では今後、義時の姿勢も変わってくるのでしょうか。
大きく変わっていくと思います。壇ノ浦の合戦が終わると源氏内部の話になり、頼朝が鎌倉幕府を作り上げていく過程で、義時は今までとは違った仕事を任されるようになっていきます。その中で、義時自身が考え、行動していく瞬間が次第に増えていきますから。そのとき、第15回で三浦義村(山本耕史)から言われた「おまえは少しずつ、頼朝に似てきているぜ」という言葉が、改めて立ってくるような気がします。
-この先、義時は年齢的にも上がっていくと思いますが、その変化はいかがでしょうか。
現在の義時はまだ20代前半なので、頭で考えるより感情が先走ってしまう部分があります。ただ、もう少したつと年齢が一気に上がって30代中盤になります。そこからはもともと持っていた“青年らしさ”みたいなものは消え、より大人になっていきます。自分ではその辺を丁寧に演じているつもりなので、きちんと段階を追ってそこにたどり着けている手応えはありますね。その頃になると息子の金剛も成長してくるので、「親として」という言い方も出てきたりして、今までとはだいぶ違った感じになっていくのかなと思っています。
-放送が始まった頃、「義時は次第にダークになっていく」とも言っていましたが、その点について教えてください。
当初、北条義時は「ダークヒーロー」がキャッチフレーズのようになっていましたが、現在撮影が進んでいるあたりでは、ダークというより、毎回シビアな決断を迫られる状況になっています。つまり、「北条が生き抜くためにはどうすべきか」という選択を重ねた結果、厳しい決断をせざるを得なかった、ということで。その中で、果たして義時はどこまで迷い、どこから迷うことをやめたのか。現在はそういう部分を皆さんと一緒に丁寧に描いているところです。
-義時の変化には、頼朝の存在が大きく関わってくると思いますが、その影響をどう捉えていますか。
難しいところですが、義時がここまで頼朝に従ってきた理由の一つに、「坂東武者の世を作り、その上に北条が立つ」と言っていた兄・宗時(片岡愛之助)の言葉がまずあります。でも、宗時の言葉だけをモチベーションにして20年近くやってきたのかというと、たぶんそうではないだろうと。途中から、兄の思いはありつつも、頼朝に対しても「この人を支えなければ」という思いがだいぶ強くなっていったと思うんです。
-というと?
頼朝と過ごす時間の中には、義時にとって納得いかないこともありましたが、その向こうには、いつまでたっても誰も信用できずにいる頼朝を支えられるのは自分だけ、という思いもあったんじゃないかと。もちろん、頼朝を支える人は他にもいたと思います。でも義時は、自分が頼朝を裏切ったら、すべてが崩れてしまうということを信じていた。だから、頼朝に最後まで付き合うことにしたと思うんです。そういうことがうまく伝わったらいいな、と思いながら演じているところです。
-義時はこれからますます大変な状況に追い込まれていきそうですね。演じる小栗さんのメンタル面はいかがでしょうか。
正直、結構しんどいですね(笑)。最初の頃は、明るく楽しい北条一家、みたいな感じでしたが、そういうものもだんだんなくなってきていますから。ただ有難いことに、現場では楽しく撮影が進んでいるので、気分がドーンと沈むようなこともなく済んでいます。
(取材・文/井上健一)