auの通信障害には驚いた。7月2日の1時35分から7月4日の15時まで61時間25分、丸2日と13時間25分の間、音声通話、データ通信ともにほぼ利用できない状態になった。影響を受けたと思われる回線数は全国の3915万回線。災害時を除いた平時で、これほどまで長時間にわたって大規模な通信障害が起きた事例は、近年では記憶にない。 知人が1人で営む小さな美容院では、電話で予約を受け付けるスタイルで、細々と営業を続けている。7月2日以降、ぱったり予約の電話が入らなくなり、不思議に思っていたところ、テレビで通信障害の話を知ったという。まさにau回線のユーザーだった。数日前に固定電話を撤去したばかり。ほとんど使っていなかったため、コスト削減のために携帯電話回線に一本化した。この判断が裏目に出てしまった。通信障害のため、少なからず売り上げに影響が出たという。
今回の問題点は、データセンターの日常的なルーター入れ替え工事に失敗しただけで、これだけ大規模な事故になってしまったことだ。特に110番や119番などの緊急通報も利用できなくなったため、影響の度合いはさらに深い。4Gから5Gの移行期にあって、今後は自動運転や遠隔手術など、人命に直結する場面で回線を利用することも増えていくだろう。そのような時代に今回のような大規模障害は決して許されない。インフラ事業者として猛省を促す。自社の工事失敗が原因で水や電気、ガスが2日以上も使えないことはあり得ない。auはじめ通信事業者には、実効性のあるバックアップ体制の構築も進めてもらいたい。各社とも要所要所ではバックアップ体制がある。しかし、今回のようにネットワーク全体が輻輳状態に陥ってしまうと利用できなくなる、というのでは意味をなさない。実質的にはバックアップがないのと同じだ。
一カ所で発生した問題が全体に影響してしまうような設計では、ますます重要性が増す通信インフラとして全く不十分だ。すべてのネットワークを2重に持つことはコスト的に難しいとしても、問題個所を容易に切り離すことができ、決して止まらない、実際に使えるバックアップ体制を再構築することが求められる。まずは、重要性の高い通信から止まらない仕組みづくりを求めたい。交通機関では事故が生じた際、他社路線への振り替え輸送を行う。通信回線でも同様に、有事の際にはローミングなどの仕組みを使って、他社回線に振り替えられる手段の提供も検討すべきだろう。
一方、ユーザー側も自衛する必要がある。現在、多くのスマートフォンは複数回線を利用できる。2枚以上のSIMカードを挿入できるモデルや、SIMカードと本体内蔵のeSIMを組み合わせて利用できるモデルなどで、2回線の利用に対応している。日ごろから、メインとサブで別々のキャリアの回線を利用するようにしておけば、今回のような障害に遭ったとしても、通信、通話を利用し続けることができる。電話番号については、二つの番号を常に知らせ、つながらない場合は、別の番号を使うよう周知することも重要だろう。(BCN・道越一郎)