登場人物が勝手に動き始めたらマズイ

 

「『リーガル・ハイ』は、最初からコメディをやりたいと思って書き始めた作品です。だから、あれを社会派みたいに言われると困っちゃうんですよね(笑)。

あの作品も、堺雅人さんが演じる主人公の古美門研介と、生瀬勝久さんが演じる三木との間に、過去の因縁があるという設定でしたが、やっぱり何も決めずにスタートしました。やっていくうちに思いつくだろうと思っていたら、そんなこと考えている場合じゃないくらい毎回のネタが大変で……。仕方がないので、最終回の前くらいにハムスターを使ってオチを考えました(笑)」

 

こう聞くと、いつも何も考えずに書き進めているようにも思えるが、重要なのは、“いつ考えるか”ということなのだ。

「以前は、かなり綿密に構成を考えてからスタートしていたこともありました。でも、結局はその通りにならないことがわかったので、とりあえず行き当たりばったりで書き始めるようになったんです。

どういうことかというと、1話、2話、3話と書いていくと、何も書かずに考えていたことより、よっぽど深いことを考えられるようになっているんです。つまり、書き進めていくと、最初に考えていたプランでは、全然ダメになっているんです。物足りない話になっているんですよ。だから、最初から細かいことを考えても仕方がないと思うようになったんですね」

 

書き進めていくうちにアイディアが出てくるということは、登場人物が自然に動き出すということなのだろうか。

「登場人物が勝手に動き出すということは、確かにあるかもしれません。でも、それはあまりいい事だとは思っていません。たぶん、登場人物が勝手に動き出すようになると、書いている人間はラクになるかもしれませんが、面白くなくなっていくと思うんです。だから“お前の勝手にはさせないぞ”という気持ちで書かないといけないと思います。

所詮、紙の上で生まれた登場人物なので、やっぱり過去に言ったようなセリフを言ったり、過去にやったことをまた繰り返したりするんですよ。そういう感じになってくると僕はイヤなので、“本当のお前はこういうヤツなんだよ”と、そいつがビックリするような展開を考えたり、わざとキャラクターを締めるようなことをしたりしています。登場人物が勝手に動くということを、よく良い意味で使ったりしますが、本当にキャラクターが自然に動き出したときは注意しないとマズイんですよ」

 

『リーガル・ハイ』は、偏屈で毒舌で浪費家の最悪な性格でありながらも、訴訟では一度も負けたことがないという敏腕弁護士・古美門研介を主人公にした法廷コメディ。古美門を演じたのは堺雅人で、その振り切れた強烈なキャラクターが注目を集めた。


「まあ、振り切ったのは堺雅人さんなんですけどね(笑)。ただ、ドラマ史上、もっとも性格の悪い主人公にしようという意識で書いていました。

『リーガル・ハイ』は法廷モノということで、弁護士の先生の監修も入っていたので、油断するとハジケなくなってしまうんですよね。話がマジメになるのはいいんですが、古美門研介がマジメなことを言ってしまうと困るので、頑張ってメチャクチャなことを言わせる方向にもっていきました。

普通のドラマの主人公って、メチャクチャなことを言っていても、最後には良いことを言うみたいなところがありますよね。じつは深い考えがあったみたいな……。そうはしたくなかったんです。最後までムチャクチャなことを言っている、とくに深い意図もない、ただ金が欲しいだけ、というキャラクターにしたかったんです」

 

オリジナルの作品では、「流行りじゃないこと、今の主流じゃないことやって当てたい」とも言っているが、そういう既存の作品の枠をぶち破ろうとする姿勢にこそ、古沢良太の本当のオリジナリティ、脚本力があるのかもしれない。

「ただそれは、僕が生まれつきのあまのじゃくというだけなのかもしれません。もう少し素直なら、もっと視聴率が取れる作品が書けるんでしょうけどね(笑)」

 

 

 

 

映画『少年H』は、8月10日(土)から全国の東宝系で公開。そして『リーガル・ハイ』は、今年4月のスペシャルに続き、続編の新シリーズが10~12月期に放送される。

 

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。