東京芸術劇場の注目企画「VS」の第5弾は阪田知樹VS高木竜馬[11月10日(木)]。
二人のピアニストが相対するシリーズ。今回が一番の「VS」かもしれない。阪田と高木が選んだのはリストとタールベルク。1837年、パリの聴衆の人気を二分していた彼らが競演した「対決」は音楽史のエピソードとして有名だ。つまり、今回のテーマそのものが「VS」なのだ。高木に聞いた。
「歴史上の実際の『VS』を現代に蘇らせる。すごく面白いですよね。でも、ヴィルトゥオーゾの二人のピアニストですから、どの曲もすごく難しいです。特にリストの《悲愴協奏曲》は、2台ピアノの域を超えて、お互いのソロが重なり合うような作品。久しぶりに血がたぎっています(笑)」
同世代の二人。高木は1992年生まれ、阪田が1993年生まれ。
「阪田さんはいつも楽屋がとても賑やかになるほど、ずっとしゃべっています(笑)。それが音楽に関することばかりで、知識量に圧倒されます。ピアノ曲だけでなく、オペラやオーケストラ曲にも造詣が深い。僕も、指揮を勉強していたこともあって、オーケストラ曲を好んで聴きます。なので、僕たちが2台ピアノを弾く意義のひとつとして、大編成のオーケストラが弾いているようなサウンドを出したい。二人で深めていけたらなと考えています」
多彩な響きは2台ピアノの醍醐味だ。
「2台のピアノが1+1=2ではなく、100にも200にもなる。二人の音楽性が同じ方向ならもちろん楽しいですし、それが違っても、新しい解釈が得られるので、リハーサルの時からとても刺激になって楽しいんです」
二人の共演はこれが2度目。今年6月に一度、3台ピアノを弾いた。
「こちらの音をものすごく聴いてくれるので、とても自然に呼吸を共有できます。その一方で、本番特有のスパークも眩いばかりです。昨年のエリザベート王妃国際コンクールでのリストのソナタも凄まじい演奏でした。置いていかれないように頑張ります!」
生で聴くタールベルクはレア。高木がソロで弾く《エジプトのモーゼの主題による幻想曲》は、史実の二人の対決時に実際に弾かれた曲だ。
「ヴィルトゥオーゾな広がりのなかに詩情があって、初めて聴く方にも楽しめる要素が散りばめられています。その魅力を届けるのが僕の責任。阪田さんとバトルなのか一緒に盛り上がるのか、火花が散るような演奏をしたいと思います。ぜひ会場で、それを直接感じてください」
(宮本明)
高木竜馬(C)池上夢貢
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