ここからは“花火”が効果的に使われた海外の映画の目を向けてみよう。最初はサスペンスの巨匠、アルフレッド・ヒッチコック全盛期の名作『泥棒成金』(1955)。

いまは南仏リヴィエラで悠々自適な生活をおくる伝説の宝石泥棒とクールでゴージャスなアメリカ娘をめぐる恋愛サスペンスだけど、ヒロインに扮したグレース・ケリーが次々に変える色鮮やかな衣裳と宝石の数々など贅の限りを尽くした演出にうっとり。中でも彼女の胸元のネックレスを浮かび上がせる、暗い部屋の窓越しに花火が打ち上がるラブシーンは圧巻だ。

ヒッチコックとグレース・ケリーが再び組んだ『ダイヤルMを廻せ!』(1954)にも男女の愛を花火と重ねた名シーンが登場するので、そちらも併せて観て欲しい。

 

当時“ヒッチコックの後継者”とも言われていたブライアン・デ・パルマ監督のサスペンス・ミステリー『ミッドナイトクロス』(1981)も、クライマックスの花火のシーンが印象的だ。

ジョン・トラボルタ扮するB級映画の音響効果マンが効果音を録音中に不穏な自動車事故を目撃。救助した女性の協力を得て彼が事件の真相を究明しようとする映画は画面分割、360度回転しながらの撮影、超スローモーションなどデ・パルマお得意の映画テクニックのオンパレード! そのエンディングを飾るのが、花火の下で繰り広げられるクライマックス。

高鳴る音楽、絶妙なスローモーション、美しい悲鳴……スリルと興奮の果てに訪れる切ない幕切れが、皮肉なほど壮麗な花火と甘美な音楽とともに脳裏に焼きつくに違いない。

 

続いてはフランス映画。すぐに頭に浮かぶのは、孤高の天才監督レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』(1991)の花火のシーンだ。

路上生活をしている青年と、失恋の喪失感と失明の危機を抱えた画学生の女性との純愛を描いた本作はカラックスが“本物”にこだわったために製作費が膨れ上がり、完成が危ぶまれた逸話で有名。だが、その甲斐あって本物と同寸のポンヌフ橋のオープンセットを始めとした美術、映像の美しさに目を奪われる。

中でも川と橋を取り囲むように、これでもか、これでもかと打ち上げられ、時に橋の上に打ち付けられる色鮮やかな花火の中で、恋人たちが抱き合い、踊るシーンは言葉にならないぐらいスゴい。映画史に残る名シーンだ。

 

 “花火”が身に沁みる“痛い”ラブ・ストーリーをアメリカ映画からも1本。『ブルーバレンタイン』(2010)は、あるカップルの出会いから、結婚、破局までをふたりの関係が壊れかけた現代と過去を交錯させながら描いていく。『ドライヴ』のライアン・ゴズリングと『ブロークバック・マウンテン』のミシェル・ウィリアムスの共演も話題になったけど、彼らが全身全霊で挑んだ生々しい演技、破滅に向かって突き進む狂おしい展開は観ている者の胸も締めつける。

その極めつけが、花火を効果的に使ったラストシーン。夢や希望に溢れていた過去を“まぼろし”だったかのように照らし出す、一瞬の閃光が愛が終わったことによる痛みをまざまざと代弁している。

 

九龍の眼-クーロンズ・アイ

花火はアクション映画にも欠かせない。というわけで、香港映画からはジャッキー・チェン主演の『九龍の眼/クーロンズ・アイ』(1988)。

『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985)の続編で、犯人グループに恋人を誘拐されたジャッキー演じる刑事が、自分の身体に爆弾を仕掛けられながらも大活躍! しかもクライマックスの戦いの舞台は花火工場。とくれば、どうなるかはだいたい想像できるはずだ。ジャッキーの生身のアクションが、花火の爆破シーンによってパワーアップ。最大級の興奮が味わえる。

 

最後は最新のビッグ・タイトルで締めくくろう。今春日本公開されたばかりの『アイアンマン3』(2013)だ。

観てない人は、人気アメリカン・コミックを映画化したSFアクションに花火? と思うかもしれないけれど、億万長者にして天才発明家トニー・スターク(ロバート・ダウニーJr.)ことアイアンマンの文字通り、最後にして最大の戦いを描いた本作でも、花火は思いがけない形で登場する。合衆国政府から“危険分子”とみなされ、一方では史上最悪のテロリスト“マンダリン”から突如襲撃を受けるアイアンマン。

そんな彼の孤独なバトルを、飛躍的に進化したアイアンマン・スーツ、正体不明の新キャラ“アイアン・パトリオット”の登場、歴代のスーツに身を包んだ十体を超えるアイアンマンが集結する迫力の戦闘シーンなど、フィナーレに相応しいド派手な見せ場を用意して描き出していく。

そして、その有終の美を飾るようにクライマックスで “花火”が鮮やかに閃光するのだが、それがどんな形で登場するのか? は、これから観る人の驚きや感動を奪うので、ここでは触れない。ただ、トニー・スタークがアイアンマン・スーツから解き放たれたような印象を受ける、とだけ書いておこう。


さあ、ここまで読んで、あなたはどの作品が気になりましたか? もちろん、これ以外にも“花火”が登場する映画はまだまだたくさんあります。すでに観ている映画も、“花火”に着目して観るとまた違った感動が味わえたり、発見があると思うので、ぜひもう一度見直してしてみてはいかがでしょうか。

 

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。