『ドント・ウォーリー・ダーリン』(11月11日公開)
アリス(フローレンス・ピュー)は、砂漠の中に作られた1950年代風のビクトリーという街で、夫のジャック(ハリー・スタイルズ)と共に幸せな日々を送っていた。
だが、この街には「夫は働き、妻は専業主婦でなければならない」「街から勝手に出てはいけない」といったルールが定められていた。
ある日、アリスは飛行機の墜落を目撃し、それ以降、彼女の周囲では不可解な出来事が続発する。次第に精神が不安定となり、周囲からも心配されるアリスだったが、あることをきっかけに、この街に疑問を抱くようになる。
『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(19)で監督として高く評価された俳優のオリビア・ワイルドの長編監督第2作のユートピアスリラー。街のリーダーの会社社長フランクにクリス・パイン、その妻シェリーにジェンマ・チャン。
皆が幸せそうに暮らしている様子が映るが、どこか不自然。ジャックたちの仕事の内容は秘密だが、フランクは、世界を変えると豪語する。どうやら、第2次大戦中の米国の原子爆弾の開発・製造のマンハッタン計画が基になっているようだ。
それ故か、不穏な空気が漂い、見ていて落ち着かない気分になる。と、ここまでの展開は、ミステリーとしては及第点。
また、妻は夫を助ける存在で、家にいてほしいという男たちの時代遅れの理想、フェミニズムの裏返しについて、女性であるオリビア・ワイルド監督が描くというのも、皮肉交じりで面白い。ただ、話が凝っている割に展開が雑で、さまざまな疑問が解消されないままに終わるのが少々残念だった。
ネタバレになるので、詳しくは書けないが、作り手たちが影響を受けたであろう映画のタイトルを挙げてみると、『めまい』(58)『ローズマリーの赤ちゃん』(68)『ステップフォードの妻たち』(75・04)『トゥルーマン・ショー』(98)『ゲット・アウト』(17)…。これだけ並べれば、映画通の人や勘のいい人は、この映画がどんな映画なのかが想像できると思う。
ちなみに、アリスのイメージはブリジット・バルドーやアン・マーグレット、ジャックは『草原の輝き』(61)のウォーレン・ベイティだという。
『すずめの戸締まり』(11月11日公開)
九州に暮らす17歳の岩戸鈴芽=すずめ(声:原菜乃華)は、扉を探しているという旅の青年・宗像草太(声:松村北斗)に出会う。彼の後を追って山中の廃墟にたどり着いた鈴芽は、古びた扉を見つけ、引き寄せられるようにその扉に手を伸ばすと、不思議な現象が起きる。
やがて、日本各地で次々と扉が開き始める。扉の向こう側からは災いがやって来るため、鈴芽は扉を閉める「戸締まりの旅」に出ることに。数々の驚きや困難に見舞われながらも、前へと進み続ける鈴芽だったが…。
日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる「扉」を閉める旅に出た少女の冒険と成長を描いた長編アニメーション。
『君の名は。』(16)のすい星衝突、『天気の子』(19)の異常気象、そしてこの映画と、新海誠監督の映画は、緻密な風景描写を背景に、天変地異とボーイ・ミーツ・ガールを融合させるパターンの繰り返しだが、今回は、鈴芽が旅する、九州から愛媛、神戸、東京、東北へのロードムービーとしての要素を加えている。
東日本大震災から10年余を経て、震災が与えた結果を直視し、亡くなった人への思いをファンタジーに仮託して描くという点では、先に公開された『天間荘の三姉妹』と通じるところがあると感じた。
(田中雄二)