増川弘明/photo by 古溪一道  
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その後2004年のメジャー2ndアルバム『ユグドラシル』あたりから藤原基央の作る楽曲はより音楽的に成熟と深化を重ね、バンド(+藤原自身も)は必然的にそれ相応の演奏力を求められることになった。そして月日は流れ、現在。もし2000年前後に彼らのライブをよく見てた人が、久々にいまのライブを見たら相当驚くと思う。

この日のスタジアムライブで言うと、最新曲の部類に入る『firefly』『虹を待つ人』あたりの大スケールの演奏もすばらしかったけど、特にインディーズ時代の名曲『K』の演奏が白眉だった。かつてバンド自身が纏っていた身を切るような切迫感によってではなく、確かな演奏力によって楽曲の世界観を表現しきっている姿には、なんだか感慨深いものを感じてしまった。

誤解されないように言っておくと、これは昔と今とどっちがいいという話では全然ない。ただミュージシャンとして飛躍的に成長したいまのBUMP OF CHICKENのライブには、以前とは違う説得力が確実に宿っているのだ。
 

バンドに生まれた、包み込むような「優しさ」

藤原基央/photo by 古溪一道  拡大画像表示

以前のライブにあった切迫感、それが逆に一見さんにとってはある種のとっつきにくさになっていた部分もあったと思う。でもいまはライブに対する真摯なスタンスはそのままに、「いっしょにライブを楽しもうぜ」というバンドの開かれた姿勢が前面に出るようになってきている。この日のライブでは藤原のテンションがすごかった。

特に印象的だったのがライブ中盤、ギターを構えた藤原が「イントロクイズ」とつぶやいてある曲のイントロをかき鳴らし、「わかった?」と笑ってみせた後で『ダイヤモンド』を歌い始めたくだり。こんな微笑ましいやりとり、昔じゃ絶対やらなかったと思う。

この変化は徐々に生まれていったものだが、2010年のアルバム『COSMONAUT』のツアーからより顕著になったように思う。2007年のアルバム『orbital period』での色濃い内省性から一転、全編にポップで優しさをたたえたメロディが響く『COSMONAUT』を作れたことが大きく影響している気がする。

この日のスタジアムライブでは、カラフルに点灯する「チームラボ・ボール」がアリーナに放たれ、LEDのリストバンド「XYLOBAND」がいっせいに発光しスタジアム中を彩った。これまでの彼らのライブではありえなかった演出で、特別なライブでファンを喜ばせたいという想いにあふれた計らいだった。こういった演出を含め、この日のライブは『COSMONAUT』というアルバムを通過し、「優しさ」をまとったいまのBUMP OF CHICKENだからこそできたライブだったと思う。