「内定通知 C殿 貴殿が当社に再就職を希望するときは、わたくしBが在任しているかぎり、無条件で当社への再就職を認める。株式会社A 代表取締役社長B」

そして、手紙が入っていた。

「C君へ。会社の夢の実現に君は不可欠だ。しかし君の夢を叶えたいという気持ちを優先してほしいとの思いから、苦渋の決断で退職を認めた。夢が叶うかどうかは君次第だが、当社はいつでもきみが戻ってくることを待っている。

ただ…未練がましいようだが、できれば君とまた一緒に仕事がしたい。君のダンスの道が成功したら一緒にダンサーの派遣でも一緒にやってみようか。まずは自分の決めた道。がんばりなさい」

Cさんは泣いた。その後Cさんがもどったかどうかはわからない。しかしCさんが幸せ者であることは間違いない。

 

はかなく散った命に捧ぐ

運送会社D社は従業員50名の、トラック20台をもつ中堅企業である。そのD社で大事故が起こった。

勤続20年のベテランEさんが、居眠り運転でセンターラインをオーバーしてきた対向トラックと正面衝突し、Eさんは治療の甲斐無く、事故から3時間後に帰らぬ人となった。

Eさんは42歳、2ヶ月後には運転の現場から運行管理をする立場に昇格する直前の事故であった。

D社の社長F氏はその最後を家族に代わって看取った。かけつけたEさんの家族にF氏は、警察は業務上過失致死罪(当時)の疑いで事故相手の運転手を回復を待って逮捕する旨を伝えた。D社には責任のないことを間接的に伝えられていた家族は、F社長に対して怒りをぶつけることもなかった。

しかしF社長は、Eさんの家族にはっきり言った。

「今回の事故は私にあります。Eさんを現場に出していたのは私です。私の管理不行き届きで、このような事故を起こしてしまい、誠に…」

言葉に詰まってしまったF社長は、頭を深々と下げながら、床に涙をこぼした。妻をはじめとするEさんの家族は、何もいわずにその姿を見続けた。

3ヶ月後の4月。D社で一つの人事が発令された。F社長が兼務していた安全運行部の部長に亡くなったEさんが任命された。無論、実際の業務はF社長が兼務でおこなうのだが、F社長は全社員に直筆のメッセージを送った。

「この世で別れても、Eさんはずっとうちの社員。二度と悲劇は起こさないことを誓う。ここに安全運行部をEさんの御心に捧げる」
 

Web制作会社・人材派遣/紹介会社・広告代理店の人事総務。人の人生を決めてしまう仕事という重責に押しつぶされ、ピロリ菌に感染していた胃が真っ赤っか。社屋移転の予算がないときは、自分でオフィスの配線を行い、感電して2週間入院したことも。現在は、中小企業向け人事コンサルティングを行う。孤独で相談相手がいない社長と朝まで激論を交わしたりするが、とにかく本に書いてある理論よりも現場がどうなっているのか、どうしたいのかを聞きまくるのが楽しくてたまらない。