2018年に本屋大賞を史上最多得票数で受賞!
累計発行部数170万部を超える辻村深月の同名ベストセラー小説を、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(01)、『河童のクゥと夏休み』(07)、『カラフル』(10)などの原恵一監督が劇場アニメ化した『かがみの孤城』が12月23日(金)からいよいよ公開になる。
子どもたちのバイブルのアニメ化
本作は学校での居場所をなくし、部屋に閉じこもっていた中学生の少女こころが、ある日突然光り出した自室の鏡の中の世界に引き込まれ、その先にあった城で出会う見ず知らずの6人の中学生たちと一緒に不思議な冒険をする感動ファンタジー。
クラスメイトとのトラブルが原因で学校に行けなくなったヒロインのこころを始め、7人の中学生全員がそれぞれの傷や痛みを持っているのも大きな特徴で、原作小説は登場人物たちと同世代の中高生を中心に人気を博し、図書室に置いている学校も多い。
そんな子どもたちのバイブルのアニメ化に挑んだ原監督が、本作に込めた想いを語った。
現代は“自分の居場所”を求めている人たちが多い
「僕の子ども時代は現代のような陰湿なイジメはなかったと思います。
でも、最近は“自分の居場所”という言葉がよく使われるようになったし、学校や社会に疎外感を感じていて、自分の居場所を求めている人が若い人だけではなく、大人の人にも多いような気がします」と、今を生きる人たちを取り巻く環境についての個人的な見解を言葉にした原監督。
原作者は“学校を楽しむ子ども時代”を送っていなかった
「それに辻村さん自身、学校を楽しむ子ども時代を送っていないらしくて、『もし学生生活を楽しんでいたら、自分はこの小説を書かなかっただろう』とも言っているんですけど、僕はその話がすごく興味深かった。
そういう人が、昔の自分のような子どもたちを物語の形で救おうとしているわけです。それは、作家としてすごく正しいあり方だと思いましたね」
そんな原作小説のアニメ化は、辻村も望んだものでもあった。
「辻村さんはアニメーション作りにも興味があって、アニメの制作現場を描いた小説『ハケンアニメ!』も書いている。
藤子・F・不二雄先生の大ファンで、『ドラえもん のび太の月面探査記』(19)の脚本も手がけている人ですけど、今回は彼女の方からの注文やお願いは特になくて。
単純な間違いの指摘はありましたが、中身に関してはほぼ任せてもらえたので、信頼していただけていたと思います」
とは言え、原作の単行本は500ページを超える大長編。「それを2時間以内の映画にするのが最大の難問でした。原作の多くのエピソードをカットしないといけないですからね。」と振り返る。
「そこで、原作以上にこころの物語に比重を置くやり方で折り合いをつけようとしたんですけど、それも簡単ではなかった。
脚本の段階でも『このままだと絶対に2時間超えますね』という意見が出たので、絵コンテを描きながら自分で欠番を作ったりして、短くしていきましたから」。
それでも、原作の濃密な内容とメッセージはまったく失われていない。
「その感想は嬉しいですね。僕たちの作業が上手く行ったということだと思うので」
こころが心を閉ざす現実の世界と、狼のお面をつけた少女“オオカミさま”(声:芦田愛菜)が7人にある課題を突きつける鏡の中の城の世界。
その画作りや見え方にもこだわった。
「城の中は大理石の床や壁、柱だったりするので、徹底的に映り込みをさせる判断をしました。
それをやるとスタッフの作業や労力が単純に倍になるんですけど、鏡というものはそもそも何かを映すものだし、“映る”というのはこの映画には必要な表現だと思ったんです。
それに対して、現実の世界の方は、こころの心を反映したような少し色が抜けた地味な印象になるようにしましたね」
現実の世界は、こころだけではなく、ほかの子どもたちにとっても生き辛い場所。
こころがひとりいる自宅に、こころに嫌がらせをする女の子やその仲間たちが押しかけてきてくるシーンなどは、原作よりも怖くて、まるでホラー映画みたいだ。
そう伝えると、「ああいうシーンを描くのが、監督の醍醐味なんですよね」と笑みを浮かべて原監督は続ける。
「主人公をどれだけ追い詰められるか? というところで僕は監督の腕が問われると思うし、ああいうシーンがあってこそ結末が活きるので、手加減しないで徹底的にやりました」