ヒロインの声を担当したのは、アフレコ時15歳の當真あみ
そんなヒロインのこころの声を担当したのは、原監督に「こころを見つけました」と言わしめたアフレコ時15歳の當真あみ。
すでにテレビドラマ「妻、小学生になる」(22)、「オールドルーキー」(22)などに出演していた彼女は声優の仕事は初挑戦だったが、「キャリアがまだ浅くて、たどたどしい感じが残っているのがよかった」と絶賛する。
「大勢の子どもたちの声やデモテープをプロデューサーチームが聞いてもらって、最終的に絞り込んだ20数人には実際に目の前で原作の冒頭にある『たとえば、夢見る時がある。』という部分を読んでもらったんです。
それを聞いたときに、當真さんの声がいちばん、僕が原作を読んだときに聞こえてきた声に近かったんですよね。
いまの當真さんだからあのこころが作れたような気もするけれど、彼女は思ったことを上手く言葉にできないときがあると言っていたので、そういうところもこころに近いのかもしれない。
でも、15歳にしては落ち着いているし、ちゃんと自分を持っているなという印象もあって、多くを話さなくても分かっている子だなと思いました」
「かがみの孤城」が提示する、現代の親のひとつの在り方
こころの母親(声:麻生久美子)やフリースクール(学校に行けない子どもたちが、小学校、中学校、高校の代わりに過ごす場所)の喜多嶋先生(声:宮﨑あおい)といった、こころに寄り添う大人たちの描写にも原作から大切なエッセンスが受け継がれている。
「喜多嶋先生はいろいろな意味で、こころにとってとても大事な存在。
彼女の声を担当した宮﨑あおいさんは最初はわりと明るい感じでやってくれたんですけど、問題を抱えた子どもたちが集まるところで働いている女性なので子どもを安心させる喋り方をしてもらいたくて、僕の方から『声のトーンをもう少し落として、優しさを柔らかく表現してください』とお願いしました」
こころの母親も、彼女のことを常に心配している。
時には過剰なその気遣いがこころを傷つけることもあるが、昔の親のように学校に行くことを強制せず、「学校に行きたくなかったら、行かなくてもいいから」と諭す原作そのままのこの母親像こそ、本作が提示する現代の親のひとつの在り方だ。
学校生活に辛さを感じている子どもたちへ
「学校での生活に生き辛さを感じている子どもには、大人がちゃんとそういうことを言ってあげないといけないと思うんですよね。
こころのクラスに転校してきた東条さんも『たかが学校』って言うけれど、学校なんて大学まで行ったとしても16年間なんです。
そこから先の人生の方がずっと長いし、僕自身、学校生活で学んだことで世の中に出てから役に立ったものなんてほぼない(笑)。読み書きと算数ぐらいで十分生きていけますよ!」
中学時代の僕は例えじゃなく、本当に居場所がなかった
「それこそ、中学時代の僕は例えじゃなく、本当に居場所がなかったんですよ」と告白する。
「ウチは商売をしていたので、お店の横にテレビのある茶の間があって、家族はいつもそこに集うんです。
子ども部屋なんかないし、近所の人が平気で上がり込んで長いこと居座ったりもするから本当の意味で居心地が悪かった。
どこにいても家族やお客さんの視線があって、逃げ場がどこにもないから、自分の部屋がある奴が羨ましかったですね。
ただ、自分の居場所があったらあったで満足しちゃって、その環境が創作活動に活かされることはなかったかもしれない」