袴田美帆

パリ国立高等音楽院サクソフォーン科、さらに室内楽科および即興科で学んだサクソフォーン奏者の袴田美帆は、現代音楽や即興演奏など幅広い演奏活動を行っている。美術館や歴史的文化施設で新たな空間芸術を創造するなど、音楽の新しい可能性に挑み続ける彼女がパリを選んだのは必然ともいえるものであった。

「もともと“芸術の都”パリに憧れがあり、神戸大学で学んでいるときに同地への交換留学が決まりました。せっかくならサックスも続けたいと思ったところ、向こうでは大学と音楽院の両立が可能ということを知ったので、まず地方音楽院を受験したのです。日々のレッスンや授業など、何もかもが新鮮な毎日の中、“できるところまでやろう”と、その年にパリ国立高等音楽院を受験しました。学費の安さや美術館やコンサートに学生料金で気軽に行けること、なにより新しいことにどんどんチャレンジ出来る自由な雰囲気は、パリならではの魅力だと思います」

袴田の幅広い音楽活動はアートマネジメントも学び、様々なコンサートの企画もしてきたことも大きいようだ。

「神戸大学は芸術を多角的に学ぶことができるのですが、そこで今もお世話になっている藤野一夫教授のアートマネジメントの授業に出会い、“私がやりたいのは芸術と社会を繋げることだ!”と感じたのです。早速1年生の夏から子どもコンサートを企画するゼミに入れて頂き、“どこで”、“どんな音楽を”、“誰と共有するか”という視点を持ち始め、様々なアートプロジェクトの企画・運営のお手伝いをさせて頂くようになりました。 今後は、歴史文化施設や産業遺産等を利用し、地域文化振興に繋がる企画作りに挑戦したいと思っています」

常に挑戦の姿勢を崩さない袴田が文化庁新進芸術家海外研修生の成果発表に選んだ作品はトマジの「サクソフォーン協奏曲」だ。

「オーケストレーションが美しく迫力があり、各楽器がそれぞれのシーンを鮮やかに彩る、幻想的で物語のような作品です。いつかオーケストラと演奏したいと憧れていました。文化庁の皆さまをはじめ、たくさんの方に支えて頂いた8年間の留学生活の集大成となるよう、感謝の気持ちを込めて演奏いたします」

すでに活発な活動を展開している袴田だが、今後の目標についても尋ねた。

「“音楽と社会を繋げるサクソフォニスト”として、多くの人が音楽を通して、新しい発見や挑戦をするきっかけ作りがしたいです。アウトリーチやワークショップ、地域振興に繋がるプロジェクトなど、まずは自分の地元から開催していければと思っています。また若手奏者のみなさんや、進路に迷う学生さんやご家族のサポートも積極的にしていきたいですね」

取材・文:長井進之介