桐朋学園大学ソリストディプロマコースを経て、ザルツブルク・モーツァルテウム大学在学中にミュンヘン・フィルハーモニー団員となった三井静。国際コンクールでの入賞も重ね、ソリストとしても圧倒的な存在感を示す彼が、ヨーロッパのオーケストラ奏者となった経緯を尋ねた。
「プロになることを目指してから師事した最初の2人の先生がオーケストラに所属していたため、自然と自分も将来はオーケストラ奏者になるだろうと思っていました。また、父親が大のクラシックファンであったため、幼少期から演奏会やCD、レコードで交響曲などを耳にする機会が多く、特にオーケストラに馴染みが深かったのも大きいかもしれません。留学中、ソロの演奏活動に専念している時期もオーケストラで弾く事を見据えて勉強していました」
三井が留学先に選んだのはオーストリアのザルツブルク。同地を選んだのはなぜだったのだろう。
「1番の理由としてはハーゲン弦楽四重奏団のチェリストであるクレメンス・ハーゲンさんの下で勉強がしたかったからです。また、チェリストにとって重要なレパートリーはバッハ、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスとドイツ語圏の作曲家のものが多く、せっかく留学するなら自分の目でその地を見て、空気を感じたいという気持ちもありました。実際に行ってみないとわからないことは多く、同じ国でも都市によって守っている伝統や奏法が微妙に違うことも知ることができました。例えばモーツァルトの演奏スタイルが距離の近いウィーン、ザルツブルク、ミュンヘンで全く違ったのには驚きましたね」
そんな彼が文化庁新進芸術家海外研修生としての成果を発表する作品として選んだのはハイドンの「チェロ協奏曲第2番」。コンクールやオーディションでよく演奏される、チェリストの必須曲だ。
「奏者の技量だけでなく、度胸やトラブル処理能力も分かるのでオーケストラのオーディションでは必ず課題曲に入ります。しかし、まず音楽としてとても素敵な曲で、古典らしいリリカルさとチェロの明るく澄んだ高音の音色のコンビネーションは他の協奏曲にない魅力です。ハイドンはとても好きな作曲家の1人なので、この曲の持つ魅力を、ぜひこの機会に多くの方にお届けできたらと思い選曲しました。普段はドイツで演奏活動をしているため、久しぶりに日本のお客様の前で協奏曲を弾ける事をとても楽しみにしています。今後もチェリストとしてさらに成長していけるよう研鑽を重ね、音楽が持っている人間的な深みも伝えられる演奏家になっていきたいです」
取材・文:長井進之介