作曲者の個性が色濃く出た、バラエティに富んだ"ポップス"の数々
M3.残像のアヴァロン(作詞:岩里祐穂、作曲:バグベア、編曲:バグベア&千葉"naotyu-"直樹)
「如何にも」なタイトルの通り、アニメの主題歌を思わせるメロディとリズム、そして、トーン高めな歌唱で突き進む、とても"アニソン"っぽい楽曲。
「あれ? この曲がタイアップになっていたラノベアニメやスマホゲー、あったっけ?」と思わされる程、実にアニソンらしいナンバーなのですが、正真正銘、本アルバムの為に作られた書き下ろしのノンタイアップ曲です。
アニソンをJ-POPにおけるモードの一つと捉え、ある意味でのオマージュとしてオリジナル楽曲を制作し、それをアニソン、声ソン界のトップランナーである中島さんが歌うというアイデアが光る曲で、その完成度は勿論のこと、コンセプトそのものにも強烈に惹かれます。
個性豊かな楽曲が揃った今作においても、メタ的な要素も込みで独特の主張を放つ本曲。まさに、アルバムの特異点となっています。
M4.ワタシノセカイ(作詞:瀬尾公治、作曲:秋浦智裕、編曲:WEST GROUND)
音楽活動の休止期間を経た後に、中島さんの"復帰作"としてリリースされた『ワタシノセカイ』。テレビアニメ『風夏』のエンディング曲として使用された楽曲で、その作品性に合わせてストレートなバンドサウンドが用いられています。
力強く疾走感たっぷりのサウンドに乗せて綴られるのは、どこまでも"エモーショナル"な中島さんの歌声で、そこには涙腺を直撃するようなエモーションが溢れている。
『風夏』の原作者である瀬尾公治さんの歌詞も素晴らしく、その切なくも前向きな歌詞に、"シンガー"中島愛の姿を重ね合わせて、この曲を聴いていたファンも多いことかと思います。
この曲に対して、歌手としての復活劇というドラマにスポットを当てすぎるのも、歌と音の本質から焦点をズラしてしまいそうで適切ではないのかもしれませんが、それにしたって、この曲があり、そして、今回のような大充実のアルバムが誕生したことを思えば、やはり感慨深いものがあります。文句なしの名曲です!
J-POPのスタンダードである"サクラソング"にも挑戦!
M5.Jewel(作詞:加藤哉子、作編曲:本間昭光)
ポルノグラフィティの諸作品を手掛けたことでJ-POPファンにはお馴染みの音楽プロデューサーであり、コンポーザー、アレンジャーとして活躍する本間昭光さんを招いた1曲で、ノリの良いギターのカッティングと、独特のビート感を有したリズムが心地よいナンバー。
ミドルテンポの楽曲ではあるものの、ドラマティックな装飾音が施されたレイヤー数の多いサウンドや、ボイスエフェクトも含めて、高音域と低音域を行き来する中島さんの歌唱によって、実際の曲の速度以上に奥行きと物語性を感じられる楽曲です。
時にファルセット気味になる中島さんの声がとてつもなく艷やかで、様々な楽曲が揃った本アルバムの中でも、中島さんの"ヴォーカリスト"の表現力を最も明快に伝えてくれるナンバーだと思います。
この後に続く叙情的な『思い出に変わるまで』や『ウソツキザクラ』と、ロックな『ワタシノセカイ』の間に挟まれたポジショニングも素晴らしく、アルバム構成におけるバトンを巧く繋いでくれています。
J-POPの有名アーティストを支えてきた職人の仕事と中島さんの歌唱力がガッチリ噛み合った、とても素敵な曲です。
M6.思い出に変わるまで(作詞:中島愛、作編曲:重永亮介)
中島さん自身の筆によるリリックで描き出す切ない恋の歌。所謂"ドンシャリ"的な、低音と鳴り物の音が強調されたドラムサウンドや、曲を盛り立てるホーンセクションの音は、80年代のアイドルソングのそれを思わせる部分があり、"歌謡曲"という表現がシックリくる曲調が実に味わい深い。
『Cuirosity』が、とことんポップソングに向かい合ったアルバムだとするならば、昭和歌謡的な"ポップ"の形状にアプローチしたのが、この『思い出に変わるまで』なのかな、と。
アルバム全体にも言えることですが、現在進行系で進化と深化を続ける中島さんの大人びた雰囲気やセクシーな表現力を堪能できる楽曲だと思います。派手なキーの高低差こそないものの、要所要所でゾクッとするような色気が感じられる。そこが、この曲の大きな魅力ではないでしょうか?
M7.ウソツキザクラ(作詞:Satomi、作編曲:松本良喜)
RUIさんの『月のしずく』や中島美嘉さんの『雪の華』といった大ヒット曲を生み出してきた作詞作曲家タッグによる提供曲は、言い出すことが出来ない恋心を桜の花に託して歌い上げる中島愛流の"サクラソング"。
モチーフの直球さに加えて、曲調もバラードとなっており、これ以上ない程、ストレートに"J-POP"を意識した楽曲ではあるものの、そこに敢えてチャレンジする姿勢にこそ、この『Curiosity』というアルバムが目指す方向性が如実に表れているように思います。
極々シンプルな言葉で表現するならば、「とてつもなく良くできた曲」であり、ポップスとしての強力な普遍性を持つ楽曲です。
下手をすれば、単なる"ベタ"に成りかねない「サクラ」をモチーフにした「ラブソング」を、ここまで情感溢れる歌へと仕立て上げる曲、歌詞、そして、歌。
そのいずれもが素晴らしく、どこまでも真っ直ぐだからこそ誤魔化しが効かない"サクラソング"に対して真っ向勝負を挑んだ結果、ハイクオリティな楽曲を生み出すことに成功している、本当に優れたバラードです。間奏でより一層叙情を盛り上げるサックスの仕事もお見事。
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