外山啓介が昨年より行なってきたモーツァルト、ベートーヴェン、ショパンの3つのソナタを軸とした「《3つのソナタ》外山啓介 ピアノ・リサイタル」が3月26日に神奈川県立音楽堂にて開催される。「このプログラムはおそらく最後」と語るリサイタルを前に、外山に話を聞いた。
モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲」、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第12番「葬送」、ショパンのピアノ・ソナタ第2番「葬送」を軸にした今回のプログラム。3人の偉大な作曲家によるソナタの“つながり”に、外山は以前から興味を持っていたという。
「モーツァルトの『トルコ行進曲』は、ソナタでありながらソナタ形式ではなく、第1楽章に変奏曲を置くという新しい試みをしています。ベートーヴェンも同様に第1楽章に変奏曲を置いていますが、彼の音楽を語る上で、重要なポイントがピアノという楽器の進化です。私が教えている学生が『ガラケーからスマホくらいの変化』と言っていて『なるほど』と思いましたが(笑)、ベートーヴェンというのは、楽器の進化と共に音楽の幅をものすごく広げた作曲家なんですね。『葬送』は、重いタイトルですが、どこか前向きで、死を哀しみだけでなく、苦しみからの解放のように捉えているところが魅力的だと思います。一方で同じ『葬送』でもショパンのほうが死に対する哀しみや苦しみの重み、エネルギーの大きさを感じます。モーツァルト、ベートーヴェンと比べ、ショパンって『温故知新』、古典への回帰への思いが強いんです。良い意味での折り目の正しさ――きちんと枠があるからこそ、いろんなことが引き立つという魅力を感じさせてくれます。ひと言でクラシックと言っても長い歴史があり、その中で、過去の作曲家にリスペクトを表しつつ、自分なりの新しいものを生み出していくという姿勢に僕自身、感動を覚えていますし、3つのソナタを続けて聴くことで時代が巡っていることの面白さを感じていただければと思います」。
ベートーヴェンのソナタとショパンのソナタの間には、ショパンのプレリュード第15番「雨だれ」、「ノクターン第7番」、「第8番」が組み込まれる。
「ショパンのソナタが変ロ短調なので、そこにつながるもので始めたくて入れたのですが、『雨だれ』から『ノクターン第7番』へのcis-moll(嬰ハ短調)とDes-dur(変ニ長調)の流れは、今年のプログラムでも一番うまく組めたんじゃないかと思っています。そこから最後のソナタにつながっていく流れもすごく美しいのでぜひ聴いていただきたいです」昨年から行なってきたこちらのプログラムだが「おそらく、今回が最後になる」とのこと。
「プログラムって決める時が一番楽しいんです(笑)。このプログラムにも随分苦しめられましたし(苦笑)、同時に救われもしました。これまでの経験を活かした熟成されたプログラムになると思いますので、ぜひ楽しんでいただけたらと思います」。
文:黒豆直樹