松たか子(ヘアメーク:須賀元子/スタイリスト:梅山弘子(KiKi inc.))

 大人計画主宰、シアターコクーン芸術監督で、コントの名手でもある才人・松尾スズキが旬の女優たちと組んで繰り広げるコントシリーズ待望の第3弾「松尾スズキと30分強の女優」が、3月25日からWOWOWで放送・配信スタートとなる。今回は時間も45分に拡大し、松たか子と長澤まさみの魅力がたっぷりと味わえる作品となった。放送を前に、コントに初挑戦した松が、番組の舞台裏やそこに込めた思いを語ってくれた。

-45分間、多彩なコントで楽しませていただきました。コント初挑戦とのことですが、出演の経緯を教えてください。

 実は、今までも何度かお話を頂いていたんですけど、「私、面白いことができないので、無理です」って、ずっと逃げていたんです(笑)。「『パ・ラパパンパン』(松尾演出の舞台)頑張るので、勘弁してください」って。でも、『パ・ラパパンパン』を一生懸命頑張ったら、またお話しを頂き、逃げる理由がなくなってしまって。松尾さんも、「そのままやれば面白くなるようにホンを作るから、大丈夫です」とまで言ってくださったので、いろいろと理由を付けて断るのも申し訳ないと思い、「はい」とお返事して、ドキドキしながらホンを待っていました。

-「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)のようなユーモアのある作品にも出演しているので、笑いが苦手というのは意外です。

 「大豆田」は、出ている皆さんは「面白くしよう」と思っていたわけではなく、普通にお芝居をしている感覚だったんです。面白くしようとしていたのは、東京03の角田(晃広)さんぐらいで(笑)。松尾さんの場合、面白さを狙いつつ、必ずどこか毒のあるものを作り続けてきた方なので、「そこに私がうまく入れるかな?」と不安だったんです。

-なるほど。

 でも、必死にやる姿が松尾さんに「面白い」と思ってもらえるのであれば、それでやるしかないかなと。だから、常に一緒にいて見守ってくださって、ちょっとしたテンポやテンションについてアドバイスを頂けたのは助かりました。言われた通りにやると、確かに面白くなるんです。すごく勉強になりました。

-松尾さんのアドバイスはどんな感じで?

 例えば、「夢ドリーム 2023 松たか子」(松が夢について語るコント)では、「自意識が高い人のイメージで。タクシーに乗ったときに車内で見るコマーシャルの感じ」と。自分では思いつかないようなアドバイスを頂いたおかげで、「あの感じか…」と具体的にイメージできました(笑)。「WOWOW ニュースサテライト アンド シングルファーザー」(ニュースショー風のコントで、松はキャスター役)も、リハーサルのときに、てきぱきとした感じでしゃべっていたら、松尾さんから「もうちょっとのんびり」と言われて。そこで、松尾さんには言っていないんですけど、自分の中でイメージを安藤優子さんから滝川クリステルさんに切り替えてしゃべるようにしました(笑)。

-そういう裏話を伺うと、もう一度見直したくなります。では、コント初挑戦の感想は?

 最初で最後のつもりだったので、とてもいい思い出になりました(笑)。

-思い出にしてしまうのはもったいないぐらい、面白かったです。今後もいろいろとオファーが来るのではないでしょうか。

 それはまた別の話で…(笑)。でも、楽しかったです。「大豆田」でご一緒した角田さんも、面白くすることに関してはプロフェッショナルな方でしたけど、基本的に一生懸命やる姿勢を持っていて、そこから学ぶことも多かったんです。だから、私はそういうやり方でしかできないんだろうなと思いながら今回は臨んだ感じです。スタッフの皆さんも、本当に真面目に、丁寧に作られていましたし。

-というと?

 「ミュージカル友達旅行」(友達同士の旅行をミュージカル風にしたコント)なんて、私が布団に挟まっているだけのカットを撮るとき、美術スタッフのチーフの方が、いろいろと忙しいはずなのに布団の挟み具合を必ずチェックしてくださったんです。「これだけは他のスタッフには任せられないんだな」と思ったので、私も「絶対に動かない!」と覚悟して(笑)。あれは、すごく感動しました。

-細部までこだわっていたわけですね。

 そういうこだわりは、コントでも映画の現場でも同じなんだな、と思いました。初日は私も不安だったので、近くにいたカメラマンの方に「面白いですか?」と聞いてみたら、「面白いです」と言ってくださって、すごく気分が楽になりましたし。そんなふうに一人一人が、見ていないようで、ちゃんと愛情を持って見守ってくださっていて。

-そういうことの積み重ねで、あの笑いが出来上がっているわけですね。ところで、松尾さんは、本作について「見てる人みな頭が変になれ、と、祈りつつ台本製作中」とコメントされていたようですが。

 そうなんですか(笑)。松尾さんには「これを笑えるぐらいでいてほしい」という願いがあるのかもしれませんね。自分たちを下げてでも、見る人が「変な人たち」と笑って、「こいつらよりちょっとはマシかな?」と思って元気になってもらえれば…みたいな愛情が、松尾さんにはあふれている気がします。

-逆に松さん自身は、本作について「無駄な時間を楽しんでほしい」とインタビューで語っていましたね。

 私もテレビが好きでよく見るんですけど、最近は暮らしに役立つ情報や健康に関する知識を得られる番組がすごく多いですよね。もちろん、それはそれでうれしいんですけど、そればかりでなく、「なんだ、この人たち?」っていう姿をただ見るだけの番組があってもいいような気がして。何げなくラジオを聴いていたら、思いがけず「いい曲だな」と思うものを見つけるみたいな感じで、「これ面白いな」と思えるものをテレビのコント番組でできたらなって。それを「何だったんだろう、この時間?」と思ったとしても、そういう時間がすてきだと思うんです。

-今はとにかく効率重視で、役に立たない、理屈が通らないことは敬遠されがちですが、日々の暮らしには、無意味な時間も必要ですよね。「見てる人みな頭が変になれ」という松尾さんの言葉にも、そういう思いがあるのかもしれません。

 そうですね。本当に出ている人が、皆さん、真面目に何の疑いもなく、ばかばかしいことをやっているんです。「何か弱みでも握られているんですか?」と聞きたくなるぐらい、松尾さんに忠実で(笑)。でもそれは、「松尾さんのやることなら、絶対に面白い」という信頼があるからなんですよね。そういう真面目さはきっと裏切らないと思えたので、私も気持ちよくばかなことができましたし。「無駄なことが、無駄じゃない感」がすごくあって、楽しかったです。しかも、これが今年の初仕事だったので、おかげで1年間頑張れそうな気がしました(笑)。

(取材・文/井上健一)

 「松尾スズキと30分強の女優」3月25日(土)午後9:30~ 「松たか子の乱」、午後10:15~「長澤まさみの乱」[WOWOWプライム] [WOWOWオンデマンド]※WOWOWオンデマンドでは無料トライアル実施中。公式サイト