佐藤晴真(c)Tomoko Hidaki

4月、「音楽堂ホリデーアフタヌーンコンサート」に出演するチェロの佐藤晴真。意外だけれど、神奈川県立音楽堂にはこれが初登場。しかし実は佐藤、この音楽堂を設計した建築家・前川國男のファンなのだそう。「木のホール」として親しまれる神奈川県立音楽堂は、前川の設計で1954年に開館。日本で初めての本格的な公立音楽ホールだった。
「東京文化会館はじめ、前川國男さんの作った空間で弾くのは、演奏とは別の視点の楽しみがあります。コンクリート打ち放しも当時の前川建築の特徴のひとつですが、コンクリートという重たいイメージが、滑らかなカーブを描いて、柔らかで軽やかな印象になる。素材と質感のギャップに魅力を感じています」
コンサートはピアニスト谷昂登との共演で、バッハ《無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調》、シューベルト《アルペジオーネ・ソナタ イ短調》、プロコフィエフ《チェロ・ソナタ ハ長調》と、ハ長調でイ短調をサンドした、きれいな平行調の構成のプログラム。
「谷君との本格的な共演は今回が初めて。曲選びは毎回、誰と弾くのかを同時に考えます。彼の、まるいのに重い音がプロコフィエフにぴったりだと思い、まずそれをメインにすることに決めました。
プロコフィエフのソナタは、すごくメロディックでロマンティック。懐が深いというのか、近代の作品ではありますけど、意外と聴きやすい作品だと思います。室内楽の枠組みの中で、でもシンフォニックに作られていて、そのバランスが、谷君の音と繋がるように感じました」
ピアノとのアンサンブルに期待するのは、駆け引きならぬ“満ち引き”だという。
「満ち引きというか、互いの会話、反応ですね。主役は音楽。その中で互いの反応合戦みたいな感じ(笑)。それによって音楽が一体となって完成するイメージです」
日本のチェロ界の若きトップランナーは進化を続けている。コロナ禍を経て、音楽、演奏という営みが何百年も続いている奇跡に、あらためて感慨を覚えるようになったと、力みなく語る。
「以前は漠然と舞台に立って、当たり前のように演奏していた。それが一度すべてストップしたことで、その文化の素晴らしさを日々再認識しています。音楽を楽しむ人、楽器を作る人、作品を作る人、それを楽譜として残す人……。演奏家の今も、さまざまな人々の営みの長い歴史の中にあるし、これからも続いていく。さらに大事に取り組もうと思うようになりました」
深い、確かなまなざし。
(宮本明)