平安時代を代表する女流才人の紫式部と清少納言ですが、なんとなく紫式部が一歩も二歩も先んじている感があります。やはり最古の長編小説と言われる『源氏物語』の存在が大きいのでしょうか。もはやほとんど流通していないですが、2千円札の図柄にもなりましたね。しかし清少納言も負けてはいないはず、という訳で清少納言を対照的な主人公に描いている2作の漫画を紹介します。

  まずはワニブックスの『コミックガム 』 で連載されていた『暴れん坊少納言』(作:かかし朝浩)です。題名からして松平健の『暴れん坊将軍』を思わせるものがあるように、元気一杯の少納言が宮中に野外にと駆け回っています。漫画のキャッチコピーでは、清少納言のことを“天才エッセイスト”と同時に、“いとツンデレなり”と評しています。ツンデレとは、愛想の無いツンツンとした振る舞いが、何かの拍子に甘えるようなデレデレした状態になるような性格や人物を指す言葉で、作品内の少納言も、普段は強気で元気一杯ながら、ともすれば内気で甘えてしまう雰囲気を見せます。

そんな少納言の相手として出てくるのが、史実では夫だった橘則光です。体力自慢の則光に対して、筆の立つ少納言は今ひとつ素直になれません。プロレス技を連発するは、物をぶつけるはと散々な目に合わせるのですが、結局は相思相愛の関係に進んでいきます。実際の歴史では、少納言は則光と結婚し、一児の出産、離婚となった後に宮中に入ります。この辺りは漫画と言うことで、思いっきり設定をずらしてあります。またキャラクターの外見も、いくらか若く見えるようになっています。

清少納言と紫式部が同時に宮中勤めをしたことはなく、直接的な面識を裏付ける物証もないのですが、当然のライバルとして紫式部も登場します。はっちゃけた少納言に対して、終始冷静な紫式部も、漫画ならではの対照的なキャラクター設定でしょう。紫式部の文才に触発されて少納言も書き始めます。それが枕草子……ではなく、現代のライトノベルも真っ青の空想小説で、読んだ周囲の人々に笑いものにされてしまいます。そして試行錯誤の末に書き始めたのが枕草子でした、と実際にそんなわけは無いのでしょうけど、清少納言もそんな苦悩を抱えていたのかもしれないと思えば、彼女の境遇に否応無く興味が湧いてきます。

  その他にもプレイボーイの藤原宣孝、おぼっちゃまの藤原斉信、真面目な右近内侍、いろいろ豊かな和泉式部、そして定子のライバル彰子と、時代を彩る歴史上の人物が次々に登場します。立場上で悪役になってしまうのが藤原道長で、強面で何かと嫌味な面を強調して描かれています。虚七分実三分くらいと思って読めば、平安時代を楽しむことができるのではないでしょうか。

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  もう一作はWEBサイト『まんがライフWIN 』 を中心に連載中で、竹書房からコミックスが発売された『姫のためなら死ねる』(作:くずしろ)です。“姫”の文字には“きみ”とルビが振ってあり、これは『愛と誠』に出てくる有名なセリフとかけたものでしょう。こちらの少納言はヒッキー(引きこもり)のニート生活を送っていたのですが、強引に定子に仕えさせられて、当初は嫌々な態度だったのですが、一目見た定子のあまりの可愛らしさに、つい少納言は邪まな妄想を抱いてしまいます。時として暴走しかける時もあるのですが、紙一重くらいで危機を乗り越え、なんとか宮中生活を乗り切っています。
 

  当たり前のようにライバルとして紫式部が登場。少納言よりはいくらか“マシ”ではあるものの普通には描かれていません。彼女が仕える彰子、少納言と定子の4人が中心になって、尋常ならざる宮中絵巻を繰り広げています。平安時代をベースにしつつ、漫画としての脚色を大きく加えているのは『暴れん坊少納言』と同じです。大きく違うのは『姫のためなら死ねる』では、男性キャラクターの影があまりにも薄いことです。全く出てこないわけではないのですが、完全に脇役か引き立て役に置かれ、良くも悪くも女性中心の世界が延々と続きます。

  振り切れた妄想のかいもあって、こちらの少納言も枕草子の執筆に取り掛かります。それはいつまでも隠しておける訳も無く、周囲の人の目に触れていくのですが、その過程において少納言が徐々に変化する様子は、さなぎが羽化するようで、「このままマトモになってくれれば……」と願いたくなります。その反面、定子への偏愛を貫いて欲しいような気もあり、なんとも悩ましいところです。

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  平安時代以外にも才媛と呼ばれる女性達がたくさん活躍していました。そんな彼女達の血脈は、延々と今にまで繋がっているのかもしれません。現代の清少納言や紫式部達は、今頃どこで何をしているのでしょうか。「そう言えば年末にはお台場でコミケが開催されるなぁ」と思い出します。何か表現したいと思う女性はたくさんいます。今の清少納言や紫式部の活躍に期待したいものです。 

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。