「育児をしない男を、父とは呼ばない」。TRFのSAMを起用した少子化対策キャンペーンが話題になったのは1999年のこと。総務庁の調査によれば、このころ母親の育児時間が1日あたり2時間39分であったのに対し、夫はわずか17分だったそう。
あれから15年、「イクメン」という言葉が浸透し、夫の育児時間は1日あたり39分にまでのびた。しかしSAMの願いもむなしく、「産後クライシス」や「えせイクメン」が注目されるなど、いっこうに夫婦の溝は埋まっていないように思える。
「なぜ私ばかりが大変なの?」「俺だって会社で仕事しているんだ!」――子育て中の夫婦にありがちな育児家事紛争の平和的解決の道を探った。
夫のイクメンぶりに納得できない妻
そもそも「イクメン」の定義って何? というところから、妻と夫で意見が割れている。
イクメンとは、母乳が出ないこと以外は率先して育児に関わっていく「真のイクメン」のみを指すのか、それとも妻の頼みごとをこなすだけの「イクメン風お手伝いさん」もアリなのか。で、たいていの夫は「お手伝いさん」のような関わり方でも妻は十分、満足していると信じている。
とくに妻が専業主婦の場合、「育児が大変なのはわかるけれど、俺だって朝から晩まで働いているんだ」という夫側の意識は強い。
一方で共働き夫婦は夫の協力が欠かせない。寝かしつけやおむつ替えも難なくこなし、「真のイクメン」を自称する夫は少なくないだろう。ただ、育児家事の負担のシーソーはたいてい妻側に大きく傾いている。ダブルワーク状態の妻側にしてみれば「どの口がイクメンと言うんだ?」と、やり場のない怒りを抱えることがあるかもしれない。
「中途半端なイクメンだったら、何もしないイケメンの方がいい……」。夫婦のスタイルがどうあっても、夫が妻に認めてもらうのは難しい。
それでは妻が夫を「イクメン」と認め、納得するラインはどこにあるのか? 究極は、あの子だくさんのダディレベルに達することなのだが、そうかといって、夫が「よ~し! おれもあのダディを目指して真のイクメンになるよ!」と会社を辞めてきても困る。そこまで生活を変えたいわけではない。
出産後、妻の自由時間は2時間以上減る
子どもが生まれると、妻の負担は激増する。総務省の「社会生活基本調査」では、子どものいない共働き夫婦の場合、妻の仕事(通勤を含む)と家事の時間は1日あたり8時間21分。家事の時間は夫25分、妻は3時間3分で、じつはこの時期も家事の負担の約9割は妻側にかかっている。
ただ、夫のトータルの労働時間も8時間19分で、忙しさはトントン。夫婦戦争の気配はまだ感じられない。
事態が急変するのは出産後。「一番下の子が3歳未満」のケースを見ると、共働きの妻が仕事・家事・育児に費やす時間は10時間15分に達する。一方、夫の方は9時間58分(このうち家事が30分、育児に43分)。
さらに1日あたりの自由時間を見ると、妻「出産前:4時間21分⇒出産後:2時間17分」、夫「出産前:4時間34分⇒3時間10分」となっていて、産後は妻の方が大幅に減るのだ。
そもそも子どもが小さなうちは、母親の行動は制限されがちで何を自由時間といっていいのかも曖昧。24時間、子どものそばにいる専業主婦であればなおさらである。