そうしてストレスがたまると、妻は夫のにわかイクメンぶりが鼻につくようになる。

「おむつ替えておいたよ」と夫に言われれば「ねえ、いちいち報告することある?」、「子どもと1時間くらい外で遊んでくるね」と報告されれば「1時間!? 短かっ!」。こうなると夫も穏やかではいられず、いよいよ決戦の火ぶたは切られることに……。

うっかり実両親や義両親を巻き込んでしまい、泥沼化することもある。

 

自分ばかりが大変だと思う心理

「私ばかりが大変」
「せっかく手伝ってやっているのに何が不満なんだ」

こうした夫婦のすれちがいには心理的な落とし穴が潜んでいると、大阪大学人間科学研究科の三宮真智子教授は解説する。

「仕事や育児家事に追われていると、お互いに自分の負担ばかりが大きいような気がして、険悪なムードになることがあります。これについて、心理学者のロスたちは興味深い実験をしています。37組の夫婦に対し、家事や育児など20項目について、夫と妻がそれぞれ自分がどのくらい貢献しているのかを調べたんです。

すると多くの場合、貢献度の割合の合計が100%を超えてしまった。つまり、夫も妻も『自分の方がやっている』と貢献度を高めに評価したんですね。このことを『自己中心性バイアス』というのですが、人間の心理には、自分ががんばったことは思い出しやすく、相手のしてくれたことはあまり覚えていないという傾向があります」

「自己中心性バイアス」があるために、パートナーがしてくれたことを軽く見てしまいがちになると、三宮教授。

仕事の帰りが夜遅くなったときは、妻を起こさないように消灯したままモソモソと夕飯をとる夫、節約の毎日のなか、自分は残り物を食べてでも夫の飲み代はきちんと確保しておく妻。何気ないやさしさは、日々の“大変な”暮らしのなかで埋もれてしまいがちだ。

「物事を自分の視点からだけ見てしまい、相手をほめたりお礼を言ったりすることが少なくなると、相手はさみしさや不満を募らせるでしょう。お互い悪気はないのに、関係がぎくしゃくしてしまうこともあり得ます。

私たちにできることは、自分のものの見方の偏たりを自覚すること。『私の方がたくさん働いた』と思うときは、ほんの少し割り引いて考えた方がいいかもしれません。互いにそうすることで、よりよいパートナーシップを築いていけたらいいですね」

今の日本は決して子育て中の女性にやさしい世の中ではないからこそ、夫婦で認め合うことが必要になってくる。夫婦戦争終結のキーは、おのおの自身の心の中にあったという青い鳥みたいな結末。「ありがとう」って言うと「ありがとう」って言う。たしかそんなCMもありましたよね。ポポポポーン♪

 

<取材協力>
三宮真智子/大阪大学大学院人間科学研究科教授。専門は認知心理学。考える心を育てる一般向けの著書に「考える心のしくみ―カナリア学園の物語」(北大路書房)がある。
カナリア学園の物語ホームページ

※三宮先生のコメントは子育て誌「ハッピーノート」掲載、「ママのためのぷち心理学」連載36「『私ばかり働いている』と感じるのはなぜ?」を一部引用、編集したものです。
 

 

 

出版社の営業事務、編集プロダクション勤務を経て2002年よりフリーライターに。育児雑誌をメインに、30代女性向けの恋愛コラム、ライフスタイルインタビュー、不動産関連情報、各種企業タイアップ記事などの構成・取材・執筆を行う。無節操な仕事ぶりが身上。