眞島秀和 (C)エンタメOVO

 「ジャングル・ブック」などで知られるノーベル文学賞受賞作家、ラドヤード・キプリングが第1次世界大戦中に書いた詩を戯曲化した舞台「My Boy Jack」が10月7日に開幕する。物語の舞台は、激戦が続く第1次世界大戦下のイギリス。時代の波にのまれ息子を戦地に送り出すしかなかった父の気持ち、息子の気落ち、姉の気持ち、そして母の気持ちを切々とつづる。父ラドヤードを演じるのは、映画、ドラマ、そして舞台と幅広く活躍する眞島秀和。本作への意気込みや役作りについて、さらには俳優業への思いなどを聞いた。

-台本を読んで、最初にどんなことを感じましたか。

 とにかくやりがいがあって、難しいお話をいただけたなという印象が強かったです。

-どのあたりに難しさを感じたのですか。

 (せりふの)ボリュームがありますし、出演者の人数も限られていて、各キャラクターのパートに厚みがあるというところがまず、難しいと感じました。以前に同じく第1次大戦下を舞台とした『月の獣』という作品に出演させていただいたときに、今、僕たちが生きている時代とは全く違う濃度を感じたのですが、今回もそれを感じています。それを表現するのはとても難しいことだと思いますし、これは頑張らないといけないという気持ちになりました。

-眞島さんが演じるラドヤードについて、今現在(取材当時)はどのようなキャラクターだと考えていますか。

 台本を読んだ段階では、相当な堅物という印象です。ただ、映画化された作品を見たときは、愛国心があって家長として名誉を重んじているけれども、息子に対する愛情も持っている人物だと感じました。この時代だったから、彼はこの作品で描かれているような行動をしていただけなのかなと。台本を読んだときに感じたラドヤードの印象と映画での印象が違ったので、自分が演じるにあたってどう作っていくのかは、稽古を重ねながら見つけていきたいと思います。ただ、第1次世界大戦中という、この時代に生きていた人たちは、密度の濃い日々を送っていたと思いますし、あの時代の人たちならではの骨太さがあると思うので、そこは稽古の中で身につけたいところですね。

-では、映画やテレビドラマなどさまざまなメディアで活躍している中で、舞台に挑戦することには、どのような思いがありますか。映画やドラマといった映像作品とは違いがありますか。

 多少の違いはあると思います。僕が元々、演劇の研究所出身ということもあるのかもしれないですが、どこかで舞台には「目指すべき場所」という感覚があります。自分の中で役者として経験を重ねて成長していくという上でも必要な場所です。もちろん映画もドラマも大事な場所ではあるのですが、仕事の仕方という意味では、(映像作品は)どこか日常の中にあるものだという感覚があるんですよ。ですが、舞台の場合はある期間、特別な場所に向かって、いつもとは違う集中力を使って演じるという作業が必要なので、日常とは少し違った感覚があり、それが違いでもあります。大変な作業ではあるけど、自分には必要なものという感覚です。目の前にお客さんがいて生のものを出していくのが舞台なので、そういう意味でも大きく違いますね。

-大変な作業も多いという舞台出演ですが、面白さ、楽しさはどこに感じていますか。

 面白さとは少し違うかもしれませんが、公演前には毎回、すごく緊張するんですよ。毎日毎日、そうした緊張を味わって、無事に公演を終えることができたときにホッとする。それを繰り返し味わえるのが舞台ならではだと思います。

-その緊張感は、映像作品でカメラの前に立つときにはあまりないものなんですか。

 もちろん映像には映像の緊張感がありますが、リアルタイムでこれから芝居が始まるという意味で、独特なものがあります。

-なるほど。ラドヤードと彼の家族は、戦争をきっかけに人生が大きく変わっていきますが、眞島さんの価値観や人生を大きく変えた出来事は?

 これがという大きなことがあったわけではないですが、生きていく中で起きている小さな出来事の連続で変わっていくのかなと思います。例えば、いつの間にか歳をとった両親を見たときや、中学や高校の同級生が亡くなったという話を聞いたときも、人生観に影響を受けました。

-では、俳優としてのターニングポイントというと?

 30歳のころにNHKで放送された「海峡」というドラマに出演したことが大きかったと思います。その作品をきっかけにお仕事をいただける機会も増え、自分の仕事として俳優業をやっていけるという意識を強く持てたので、そういう意味でもターニングポイントになったと思います。

-そうしたターニングポイントを経て、仕事への思いにも大きな変化があったと思います。デビュー当時と比べると、一番、大きな違いはどんなところにありますか。

 役者で食べられる、食べられないというのはもちろんありますが(笑)。それから、本当にすごい人たちがたくさんいるなと最近、つくづく思うようになりました。映画も舞台も、作品を作るときには、とにかくたくさんの人が関わっています。いろいろな才能を持った人たちが集まって作品が作られていくので、こんなにもすごい方がいるんだと思う場面は多いです。やはり役者を始めた当初は、表に出てくる方、役者だったり、監督だったりに目がいっていたのですが、実際に現場にいると、それぞれの部署でキャリアを重ねてきて得た技術を持っている、すごい方がたくさんいらっしゃるんですよ。すごい世界だなと思います。

-これから先を考えたとき、俳優としてはどんな未来を思い描いていますか。

 今40代後半で、今のところこの仕事を辞めるつもりもないのですが、50代になっても仕事があるのかという不安はあります。どんどん挑戦して、一生懸命取り組んでいかないと仕事がなくなってしまうのではないかという怖さはいまだにありますし、その気持ちがなくなったときが僕の定年なのかなとも思います。ですが、僕はまだまだ続けていきたいので、だからこそ何事も真摯(しんし)に取り組んで頑張りたい。今回の父親役のように、この年代だからこそできる役もありますし、そうした役に挑めることにもとてもやりがいを感じています。

-眞島さんの仕事への原動力は何ですか。

 交流のある役者やプライベートでも仲のいい役者が出演している作品を見ると、自分も頑張らなければと思いますし、それが一つの原動力になります。もちろん、「作品を楽しみにしている」とファンの方に言っていただくのも原動力です。

-最後に読者にメッセージをお願いします。

 演出の上村聡史さんをはじめとしたスタッフさん、役者の皆さんとともに、稽古を通してこの時代の一つの家族の生きざまを作り上げていきたいと思います。劇中で描かれているのは第1次世界大戦下の話ですが、世界情勢がどんどん混乱していきそうなこの時代に生きているわれわれにもすごく刺さる作品になっていると思いますので、ぜひ足を運んでいただけたらと思います。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 舞台「My Boy Jack」は、10月7日~22日に都内・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAほか、福岡、兵庫、愛知で上演。