山本耕史 (ヘアメーク:西岡和彦/スタイリスト:笠井時夢) (C)エンタメOVO

 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の三浦義村やドラマ「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)の中山田洋など、数々のドラマ・映画で存在感を発揮している山本耕史。10月8日から上演される音楽劇「浅草キッド」では、林遣都が演じる北野武の師匠・深見千三郎を演じる。本作は、ビートたけしがまだ何者でもなかった青年時代のとある夏に、のちの人生を決定づける師匠・深見と出会い、苦楽を共にした芸人仲間やたくましく生きるストリッパーたちと過ごした日々を描いた青春自伝小説を初舞台化した作品だ。山本に本作の見どころや役作りについて、共演の林の印象などを聞いた。

ー今、山本さんが稽古を通して感じている深見千三郎の魅力は?

 この時代ならではの粋な人柄だなと思います。実は最初、台本には下品なことが面白いというその時代特有の流れを取り入れたコントをするシーンがあったのですが、僕は今の時代に今の人たちが見るんだから必要ないと思ったんです。そうした僕の意見をくみ取ってくれたのかは分かりませんが、今は“品のある下品”を作れているのかなと思います。その“品のある下品”が、深見さんのいなせな、“ナウい”感じなのかなと(笑)。(深見は)格好もやっぱり“ナウい”じゃないですか。「うるせえ」なんて言っているけれど、その背中がかっこいい。そんなイメージで(原作では)描かれているので、そう感じていただけるように演じられたらいいなと思います。

ービートたけしさんの原作は、映画化もドラマ化もされています。山本さんは、そんな本作を舞台化することにどんな魅力を感じていますか。

 僕は、映像はどちらも見ていないんですよ。今の時点で見てしまうと、良くも悪くも影響をされてしまうと思ったので、まずはまっさらな状態でやってみようと。なので、映像と比べることはできませんが、今回の台本を読んだときに「これはもう舞台の作品だ」と思ったくらい、舞台に向いている作品だと思います。終わり方も非常に良かった。昔、歌番組で演奏者もいない、何もない空間に歌手の方が立っていて、そこにスポットライトが当たって歌っている映像ってあったじゃないですか。まっさらな中にポツンと立っている。そんな景色が本読みをしたときに見えたんです。雑踏の中で、長屋暮らしをしているような雰囲気の作品なのに、最後には一人寂しくポツンと立っている武さんが見えたんです。もしかしたら、そんな状況で歌っている武さんの映像を見たことがあったのかもしれませんが。なので、現代っぽくもありながら、当時を感じさせる作品になると思います。

ー北野武さんにはどんな印象を持っていますか。

 僕は一緒にお仕事したことがないので、あくまでもイメージですが、色々な顔がある方だなと思います。着ぐるみを着て出てきて、ハチャメチャなことをすることもあれば、『座頭市』で見せたようなピリッとした姿もあり、『アウトレイジ』のような影がある役をやれば、本当にその世界を生きてきた人なんじゃないかという説得力がある。そんな武さんに深見さんが影響を与えていたとするなら、今の武さんをイメージして役作りをするのがいいのかなと思っています。ああ、これは武さんの話なんだなと、この作品を見た人にどこかで感じてもらえたらうれしいですね。

ー今回、林遣都さんが北野武さんを演じますが、林さんが演じる武さんをどう感じていますか。

 すごいですよ。ルックスは全然違うのに、武さんになっていますから。(林の)マネジャーさんに「まねしているの?」って聞いたら、「普段からこんな感じです」って言っていたので、もともと、そういう要素があるんでしょうね。武さんには見えないのに武さんなんですよ。すごくいい俳優さんなんだなと改めて感じました。役を自分に引き寄せるのではなく、歩み寄れる俳優なんだと思います。どんな役をやっても自分に引き寄せる俳優もいますし、その方がいい場合もあると思いますが、彼は自分から歩み寄るタイプ。この作品が彼の代表作になるんじゃないかなと思います。

ー今作では深見と武の師弟関係が描かれていますが、弟子という存在に対してこの作品ではどのように向き合っていますか。

 「お前は俺の弟子だ」という師匠は、実はあまりいないんじゃないかなと僕は思います。弟子が「師匠」と呼ぶから、必然的に「弟子」と呼ばれているだけなんじゃないかなという気がします。ついてくるから、「じゃあ、もういいよ」って。それを言葉で言うなら「弟子」なのかなと。この作品の製作発表のときに、(本作で高山三太を演じる松下)優也くんが「師匠はコウジヤマモト」と言ってくれていましたが、僕は別に彼と師弟関係を結んだわけではないですよ(笑)。でも彼が僕を師匠と呼んでくれた時点で、形としては師弟という構図になっているのだとしたら、それはそれでいいのかなとも思います。

ー松下さんもそうですが、舞台の場合は、後輩の方と一緒の現場で長く過ごすことも多いと思います。弟子ではなくとも、後輩俳優と接するときに何か意識されていることはありますか。

 別に後輩の方だからということではないですが、感性が面白い子は探してます(笑)。ただ、だからといって無理に距離感を縮めようと考えることはないです。優也くんはすごく珍しいタイプなんです。(ミュージカル「太平洋序曲」で共演した際に)同じ役を演じるダブルキャストだったので、一緒に舞台に立ったことがないんですよ。でも、稽古場では一番交流を持っていて、お互いに役作りについてもたくさん話して。そういう意味でも、僕にとってはただの後輩ではないので、面白い関係だなとは思います。

ーほかの俳優からも、山本さんから稽古場で筋トレを教わった、彼が師匠だというエピソードを聞いたことがあります。筋トレも一つのコミュニケーションになっているのでは?

 別に筋トレでコミュニケーションをとっているつもりはないんですけどね(笑)。ただ、舞台に立っている人はみんな、体を気にしていますし、かっこよくありたいと思っていると思うので、聞かれることは多いですね。なんだかんだ、みんな筋トレが好きなんで(笑)、それが結果的にコミュニケーションになっているんだと思います。

ー山本さんは映像作品でも大活躍していますが、その中で、舞台作品に出演することへの思いも聞かせてください。

 舞台は、僕にとって俳優としての引き出しをたくさん発見できた場所なので、なんとなく自分の出発点だという感覚はあります。今の僕ができあがった基礎は舞台だなと。ただ、若い頃はいくらでも動けたし、エネルギーの出しどころでもあったけれど、僕はもう47歳になるのでやっぱりしんどいんですよ。だから、最近は、舞台の良さとしんどさを同時に痛感してます(苦笑)。大変だからこそすばらしいものなんですけどね。舞台に立つと、コントロールが効かなくなって、マックスの力以上に突き抜けてやってしまうんですよ。もちろん8割の力でやれれば回数もできるんだろうけど、8割でやったらバレるのも舞台。決して映像が楽だというわけではないけれども、やはり毎回毎回を生の人間が演じ続け、収録だったらNGで止められるようなことが起きても止まることはできない舞台は大変ですし、映像にはない怖さも喜びもあるものだなと思います。正直なところ、いつまでやれるんだろうなとも思っています。氷室京介さんが、多くの人から求められていて、歌も完璧に歌えるのに、ちょっとした耳の不調で、歌うことをやめる選択をしたのを見て、自分はいつまでやれるのかなと、ふと思うときはあります。

ー逆に、長く続けるという美徳もあるのでは?

 確かにそうですし、続けたいという方はいらっしゃると思います。ただ、僕はそこまでしてやらなくてもいいのかなと思う部分もあります。僕自身は役者として「長く続ける」ということが目標となっているのかと言われたら、それは少し違うかな? と思っています。とはいえ、今は目の前のことに真摯(しんし)に向き合っていき、まずはこの作品を無事にやり遂げられたらと思います。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 カンテレ開局65周年記念公演 音楽劇「浅草キッド」は、10月8日~22日に都内・明治座ほか、大阪、名古屋で上演。