プロレスファンにとって、新日本プロレスの1/4・東京ドーム大会は、初詣を意味する。イッテンヨンのために、全国のファンが東京ドームに集う。

「プロレスって、まだドームでやっているの?」なんて、野暮なことは言わず、しばし、お付き合いを。

確かにここ数年、プロレスは格闘技に押されっぱなしだが、プロレスならではの魅力がある。そのひとつが、入場シーンだ。入場シーンに外せないテーマ曲は、70年代に千の顔を持つ男、ミル・マスカラスがジグソー「スカイハイ」の颯爽とした旋律に乗って入場したのがはじまり。キレキレの空中殺法をもちろん、ジャンピングリングインに選手コール時のオーバーマスクを投げるパフォーマンスは、マスカラスを名レスラーにした。


マスカラス以外にも、移民の唄に乗って、チェーンを振り回し、客席に雪崩れ込むブルーザー・ブロディ、


サーベルを振り回し、観客をパニックに陥れるタイガー・ジェット・シンなど、往年の名レスラーたちは、試合前から全開のパフォーマンスを見せた。


何も客いじりをするのが長けているのがプロレスラーではない。代名詞と言えるテーマ曲を受け、アンドレ・ザ・ジャイアントやアブドーラ・ザ・ブッチャーはのしのし歩くだけだ。たまに止まって、睨みつけるだけで、会場の空気を支配する。アントニオ猪木も現役時代は表情と全身から発せられる殺気で会場に緊張感を与えた。現役を引いたあとは、寸劇とコスプレで失笑を買うのが定番となったが、現役時代はやはり入場から観客を手のひらに乗せていたのだ。

入場パフォーマンスに長けた格闘家と言えば、毎回趣向を凝らす桜庭和志や圧巻のダンスを見せる須藤元気、オタク度満開の長島自演乙、グレイシー一族がずらりと並ぶグレイシートレインを組んだホイス・グレイシーくらいか。


で、話を戻して、イッテンヨンの見どころは、入場シーンということ。東京ドームの花道は、当たり前だが長く高くなっている。暗転した中、レスラーたちはテーマ曲に乗って、スポットライトを浴びながら、リングへ向かうのだ。シングルマッチの場合はたったひとりで間が持つか否か、レスラーの器量が試されると言ったらおおげさか。

入場シーンでぐっと大観衆の視線を独り占めするプロレスラーと言えば、武藤敬司である。


若い時はロープ越しに回転してリングイン、現在は間を十分に取った上で素早い動きでリングインする。ポーズもビシッと決める。もうこれは伝統芸能である。


東京ドームで武藤と対戦する内藤哲也にも華がある。リングインの際、コーナーに上り、胸を張り両手を大きく広げる。前の試合が荒れようが、この内藤が入場すれば、会場の雰囲気は「陽」に一変する。

陽性キャラと言えば、IWGP王者・棚橋弘至だ。カッコキメキメの入場でファンのハートをわしづかみにする。入場シーンがつかみなら、試合内容で魅了した上、エアギターでおまけをつけ、「愛してまーす!」の絶叫でメインを締める、まさにひとりフルコースのようなプロレスラーである。


その棚橋が、メインで殺気を漂わせ歩を進める鈴木みのると対戦するのも興味深い。鈴木の殺気と、棚橋の明るさ、入場の対比を楽しむのもおすすめする。

そして、とどめは獣神サンダー・ライガー、タイガーマスクの入場だ。マスクマンの特権、そしてテーマ曲をコロコロ変えない強みで、観客のボルテージを一気に上げる。


1/4(水)、広く長く高い東京ドームの花道を進むプロレスラーたちのパフォーマンス力をイッテンヨンで比べてみるのはいかが。

あおやま・おりま 1994年の中部支局入りから、ぴあひと筋の編集人生。その大半はスポーツを担当する。元旦のサッカー天皇杯決勝から大晦日の格闘技まで、「365日いつ何時いかなる現場へも行く」が信条だったが、ここ最近は「現場はぼちぼち」。趣味は読書とスーパー銭湯通いと深酒。映画のマイベストはスカーフェイス、小説のマイベストはプリズンホテルと嗜好はかなり偏っている。