お客さんをすごく楽しませるということを極端に進化させているジャンルなのかな
有名ミュージシャンをモチーフにした独自の新ものまねジャンル「作詞作曲ものまね」はこのアルバムで聴くこともできます。
僕のライブに来るお客さんは、ヴィジュアル系のライブに足繁く通ってる人は少ないだろうし。だけどなにか熱の帯び方が違うなあと。だから、ヴィジュアル系の人たちや、その楽曲構造はお客さんを楽しませるマジックがあるんじゃないかなとずっと気になっていて。
それから、数年前に東京と大阪であるヴィジュアル系バンドと対バンさせてもらう機会があったんです。そこで、怒られることを承知で『お母さん』をやったのね。そしたらお客さんが咲いたんだよね(※「咲く」とはV系ファン特有の両腕を広げる動きのこと)。最初何のことだかサッパリ分からなくて。「なんでこんなことやってるのかな?」と。
――何の前知識も無いとそれは驚きますよね。
マキタ:その時に、どうもそういう「様式」があると知って「すげえな、客が出来てるぞ」と。その時にステージの裏側もみてると、スタッフワークとか、ヴィジュアル系バンドの運営の一端をそこで見たんですね。それでますます興味を持ってしまって。単にからかいや揶揄、お笑いの対象としてみるわけにはいかないとハッキリ思ったのがそこからです。
ヴィジュアル系というものも段々細分化してきていることを考えると、音楽的な定義というのはなんにもできない。
――本格的なレゲエやヒップホップみたいな人はほぼ見たことないですけど、要素だけなら色々な音楽ジャンルから持ってきていますし。
マキタ:ありとあらゆる音楽を吸収してしまうようなものだから、ただ単にお化粧をしてるだけとか、音楽的な構造やアレンジからはヴィジュアル系を定義しづらいよねって。じゃあなんなのかっていうと「ビジネスモデル」だと。
お客さんが様式美をもって楽しんだりすることとか、物販の種類や売り方や、ひいては楽曲がどういう構造だと盛り上がるのかを考えていることをふくめて、お客さんをすごく楽しませるということを極端に進化させているジャンルなのかな。
僕は「黒いディズニーランド」と思っていて。ディズニーランドの中にもホーンテッドマンションとかちょっと怖いのもあるじゃないですか。あれでみんな盛り上がったりするでしょ? ディズニーランドっていうのはものすごいブランディングされた世界だけど、基本的にお客さんに寄り添う形になっている。
何をしたら一番喜ぶかってことをお客さん本位で考えつくしてるところだから、ありとあらゆる日本のエンタメが尻すぼみになっている中で、ディズニーランドは一人勝ちしているような感じじゃない。それと同じように「ヴィジュアル系」というシーン自体が一丸となって、一大アミューズメントパークみたいな感じでシーンが作られているんだなと思うとすごく腑に落ちる。
――それこそジェットコースターみたいな激しいバンドもあれば、メリーゴーランドのようなバンドもあって、それで全体的にひとつのテーマパークのようなシーンが成立してると。
マキタ:思い返してみたら、LUNA SEAはかつてファンのことを「SLAVE」と呼んだけど。SM業界の金言で、「SとMは裏返しになっている」と。「SはサービスのSで、Mは満足のM」だと。だからサディストの方が実は凄くサービス精神旺盛な人で、マゾの方が実はワガママだっていうことと同じなのかなって。
お客さん、顧客というものはつまりクライアントなわけですよ。偉い人なんです。偉い人っていうのはワガママなんです(笑)。それを叶えて差し上げるために考え尽くした結果、お客さんを罵ったほうが興奮するということに行き着いている。どんだけお客さんのことを考えたんだよって。
そういうヴィジュアル系の一番サービス精神を露骨に尖らせてた先がゴールデンボンバーだったのかなあ。