PCやタブレット周辺機器メーカーのサンワサプライの山田哲也社長は、2019年5月1日に長男で専務の山田和範氏に社長を交代する計画だ。会長に就任する山田社長は、今後の成長分野である「航空宇宙産業」に着目し、地元、岡山の新たな産業に育成しようと活動している。
身近になった航空宇宙産業
実は山田社長は30年前から、航空宇宙産業を事業として立ち上げたいという思いを強くもっていた。その当時に登録した「サンワスペースインダストリー」という会社名は、今も残っている。
かつては、大手重工メーカーや一部の国の事業団体しか手を出せなかった宇宙産業だが、ここにきてソニーが宇宙ビジネスに参入すると報じられたり、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと一緒に参画したキヤノン電子の民生部品をつかった世界最小ロケットが打ち上げに成功したりと、民間企業に身近な存在になりつつある。関連するベンチャーも次々と生まれている。
「通信が5Gになって低軌道の衛星が600個ぐらい上がるようになれば、よりビジネスは具体的になるだろう」と山田社長は読む。同じ文脈で、ドローン関連の商品や、ドローンの操縦訓練を行う学校、そのための運用スペースの確保など、新規のビジネスが創出されていくという。
そんななか、山田社長は17年11月27日、サンワサプライの本社がある岡山県倉敷市で、市長や商工会議所のメンバー、有力企業を巻き込んで「MASC(岡山県倉敷市水島地域への航空宇宙産業クラスターの実現に向けた研究会)」を立ち上げ、副理事長として具体的なアクションを起こしている。
合言葉は“SPACE is OPEN”。「今、地上にある仕事の量を考えても、宇宙はまったくの空白地帯。ビジネスチャンスは大きい。『皆さん、速く手を挙げた方がいいですよ』と声掛けしながら、MASCを立ち上げた」と研究会設立の経緯を語る山田社長。社長自身、国内外の宇宙関連の展示会に参加したり、ベンチャーを直接訪問したりしている。業績が好調な企業ほど、航空宇宙産業に寄せる期待が大きかったという。
航空機をつくるDNAが残っている
MASCは昨年11月に設立総会と勉強を立ち上げ、つい先日の4月28日には岡山市立美術館の講堂で第1回「航空宇宙ビジネスフォーラム」を開催。地元企業による宇宙産業の将来性や可能性について研究した。
MASCの活動は、山田社長が生まれ育った岡山に、将来性のある新しい産業を根付かせたいという思いもある。「岡山は繊維産業や農業などが強いが、もうひとつ将来が見込める大きな事業をつくりたい」と熱く語る。
倉敷と宇宙は、縁遠い存在でもない。倉敷市の水島には、終戦近くの1943年に三菱重工業の水島航空機製作所が設立され、70年に今の三菱自動車工業の水島製作所になっている。「倉敷には航空機をつくるDNAが残っていて、それを引き継げたらいいと思う」と山田社長は語る。
サンワサプライが手掛ける事業との関連性は今のところ薄いが、航空宇宙の関連機器が出てくると、通信やコンピューティングで培った知見が活かせ、ビジネスの可能性は一気に膨らむだろう。山田社長は、会長になってからも、相変わらず忙しく飛び回っていそうだ。(BCN・細田 立圭志)