突然ですが、質問です。離婚する夫婦は何がきっかけだと思いますか? 例えば、法務省の司法統計(2020年、離婚申し立ての動機別割合のうち、妻の数字)によると暴力を振るうが21%、異性関係が16%、浪費するが10%、酒を飲みすぎるが4%です。

筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして20年間で2万組以上の夫婦の相談にのってきましたが、これが離婚の決定的な原因ではないと思います。

一度限りで終わり、それ以降に暴力を振るわなければ、愛人に連絡しなければ、お金を使わなければ、酒を飲まなければ、致命傷には至りません。まだ夫婦の間に少しの信頼関係は残るので軽傷で済むからです。それでも離婚を避けられないのは、これらのトラブルが起こったときに「嘘」をつくからです。

嘘に嘘で塗り固めていくうちに、完全に信頼を失い、愛想をつかされ、離婚に至るのです。これは一体どういうことでしょうか? 今回は夫の仕事が長続きせずに悩む柴田愛香(36歳/仮名)さんのケースを紹介します。

コロナ禍で見つけた仕事とその末路

愛香さんは娘(6歳)と夫(32歳)と暮らしていましたが、夫は仕事が長続きしないタイプで、収入が途切れ途切れでした。夫婦の家計はフルタイムで働く愛香さんが支えていました。

彼女はパチンコメーカーで営業職として働き、500~600万円の年収があったので、夫の稼ぎがなくても生活は可能でした。しかし、夫に働く気がないわけではなく、愛香さんは夫が1つの仕事に落ち着き、安定した収入を得ることを望んでいました。

そんななか、新型コロナウイルスが発生し、ワクチン接種が推奨されました。夫が申し込んだのは集団接種会場の受付の仕事で、接種クーポンの確認や健康保険証の照合、接種後の安静時間の管理などが主な業務内容でした。

ようやく見つかった仕事ですが、夫はわずか6ヵ月で辞めてしまいました。その理由は「高齢者ばかりで仕事がきつすぎて、マジ無理!」というものでした。

就職活動費用を競馬に使った夫

それ以降、愛香さんは夫に毎月2万円を渡していました。これは就職活動にかかる交通費や昼食代、コピー代などに使うためのものでしたが、ある週末に決定的な出来事が起こりました。

夫は「お昼頃に面接だから」と言い出発しましたが、夕方になっても帰ってきませんでした。心配になった愛香さんは電話をかけ、「今、どこにいるの? どこの会社に行っているの?」と尋ねました。

普段は音声通話をしていましたが、愛香さんは誤ってビデオ通話のボタンを押してしまい、夫の背景に競馬場のオッズや過去のレース情報が表示されていることに気付きました。夫は会社の面接だと偽り、競馬場もしくは馬券売り場に入り浸っていたのです。

夫は毎月の2万円を競馬に使い、すべて失ったことを白状しました。愛香さんが夫のために用意したお金はギャンブルのためではなく、早く仕事を見つけて欲しかったからです。

信頼関係の崩壊

夫が恩を仇で返したことで、愛香さんの堪忍袋の緒が切れました。離婚を決めたのは、夫が働かないからではなく、嘘をつき、人格を疑い、信じられなくなったからです。

愛香さんは最後に「今は娘のことだけ考えればいいので、とても気が楽になりました」と言いました。お荷物でしかなかった夫がいなくなり、せいせいしているようです。

ここまで愛香さんが夫を認め、許し、裏切られるまでの経緯を見てきました。もちろん、過ちを犯さない方が良いのですが、そこまで完璧な人間はいません。大事なのは犯した過ちをどのように挽回するかです。

信頼を取り戻す過程で嘘をつくのはご法度です。ただでさえ過ちを目の当たりにして信頼を損ねているのに、「恥の上塗り」をすれば取り返しのつかない事態に至るのは当然です。夫婦関係を壊したくない方はくれぐれもお気を付けください。

1980年生。国学院大学卒。行政書士・FP。離婚に特化し開業。6年目で相談7千件、会員は6千人を突破。バナナマン設楽さんの「ノンストップ」、明石家さんまさんの「ホンマでっかTV」、EXITさん初MC「市民のミカタ」などに出演。「STORY」「AR」などファッション誌にも登場。著書は「婚活貧乏」など11冊。