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 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。「源氏物語」の作者・紫式部/まひろ(吉高由里子)の生涯を描く物語を彩る重要人物の1人が、「枕草子」の作者・ききょう/清少納言だ。中盤に差し掛かった物語は、敬愛した中宮・藤原定子(高畑充希)が亡くなり、ききょうにとっても一つの転機を迎えた。演じるファーストサマーウイカが、定子とのシーンを中心に、役への思いや撮影の舞台裏を語ってくれた。


-演じるにあたって、ききょう/清少納言をどんな人物と捉えていますか。


 出演が決まってから、清少納言に関する本をいくつも読みましたが、知れば知るほど、自分に近い考え方をする人だと感じるようになりました。SNSで皆さんから「生まれ変わり」と言っていただくこともありますが、自分でも「そうかも」と思うくらいです。おかげで、最初は大役ということでプレッシャーもありましたが、今ではものすごく親近感を持って接しています。


-第二十九回「母として」では、ききょうが「枕草子」に「定子さまの華やかな部分だけを書く」とまひろに告げました。その点をどのように捉えていますか。


 まひろの言うように「影の部分も書いた方が面白い」ということもわかります。ただこの作品では、ききょうは定子さまを励ますために「枕草子」を書き始めたという解釈になっているので、影の部分を書くことは、その主旨から外れます。さらに、私は定子さまをききょうにとっての“推し”と捉えていますが、現代のアイドルが「お手洗いになんていかない」というように、“推し”の見たくない裏側は不要なんです。何より、定子さまが悲しい思いをしながらも、どれほど歯をくいしばって生きてきたか、本人が夫の一条天皇(塩野瑛久)や兄弟にすら見せなかったものを、自分が書き残して世に広める必要はない。そんなことは野暮だと。そう考えたと解釈しました。


-同じ回でききょうは「枕草子」を「宮中で広めてください」と定子の兄・藤原伊周(三浦翔平)に依頼しますが、第二十五回「決意」で伊周が「これを宮中に広めてはどうだろう」と言ったときは、「これは中宮さまのためだけに書いたもの」と嫌がっていました。その心境の変化はなぜでしょうか。


 第二十五回の時、SNSで「個人的に作った同人誌が大手出版社に目ぇつけられたみたいだ」という感想を見つけたのですが、まさにそんな気持ちで。2人だけの宝物に…と思っていたのに、余計なことはしないでほしい、という気持ちだったんです。


-それが、定子の死を境に変わったと?


 定子さまの死後、家が没落してしまったら、命懸けで家を守ろうとした彼女の人生が、なんの意味もなくなってしまいます。「遺していく子どもたちだけは」と定子さまから託された最後の使命を、兄弟たちには任せておけない、自分が命を懸けて果たすべきだと考えたのでしょう。それには、一条天皇の心を定子さまにつなぎ留めておけばいい。これがその鎖になれば、という思いから、伊周に「広めてください」と頼んだに違いありません。史実でも、清少納言は定子さまの死後も「枕草子」を書き続けていますが、そこから定子さまの素晴らしさを書き残すことに使命が変わったんだろうなと。それが千年後も残っているなんて、格好いいですよね。


-定子の生き方について、ウイカさん自身はどう感じていますか。


 事前に定子さまのお墓を訪ね、関連する本もいろいろ読みましたが、25歳で世を去ったとは思えないほど立派で、素晴らしい生き方をされた方だったんだなと。


-定子を演じた高畑充希さんの印象は?


 充希さんはたたずんでいるだけでもう定子さま以外の何者でもないという説得力がありました。充希さんのまなざしが素晴らしく、一対一で見つめ合ってお芝居させていただくときは、何度も自然と涙がこぼれてきましたし、初対面の場面ではみやびな風が吹いてくるようで…。でも、あの定子さまを前にしたら、誰でもそうなると思います。そのシーンを収めた「定子さまVR」を作って、皆さんにもその雰囲気を体感してほしいくらいです(笑)。

-第二十一回「旅立ち」での「枕草子」誕生の場面で流れた「春はあけぼの」という有名な一節の朗読は、ウイカさんの朗読も収録し、試行錯誤の結果、高畑さんの朗読が使われたそうですね。


 紆余(うよ)曲折あったことは知っていたので、「充希さんの朗読を使うことになりました」と電話で伺ったときは、私も「それしかない。早くそのシーンが見たい!」と気持ちが高ぶり、鳥肌が立ちました。実は、第二十回(「望みの先に」)の最後に放送された次回予告でも、2人が背中合わせのように編集されたカットに「春はあけぼの」の朗読が重なっているのですが、そこでは「春は」が充希さんの声で「あけぼの」は私の声が使われているんです。定子さまとのコラボに「かっこいい!」と感激し、それだけでスピンオフを作ってほしいと思ったくらいです。


-主人公のまひろを演じる吉高由里子さんの印象は?


 吉高さんは、何度対峙(たいじ)しても、全て受け止め、予測できないようなお芝居で返してくださるので、いつも圧倒されています。にもかかわらず、「(相手の芝居を)受けているだけ」とさらっとおっしゃる吉高さんは天才だなと。「まひろさまって、すごいこと考えるのね」というききょうのせりふもありましたが、そこに「吉高さんって、すごいですね」という気持ちが全く同じように乗ってきましたし。今回、吉高さんと充希さん、同年代の天才二人と一対一でお芝居させていただける自分は、つくづくぜいたくさせていただいているなと。お芝居でもそれ以外でもお二人から私はもらってばかりですが、それに全力で返すことを繰り返しながら、ありがたい経験をさせていただいています。


-ライバルで仲の悪いイメージの強い清少納言と紫式部を、親友として描いているのも、本作の斬新な点です。


 「紫式部日記」に清少納言の悪口が書かれているので、まひろとききょうの関係性はネタバレしているわけです。だからこそ、最初は距離を近づけておくという大石(静/脚本家)先生のアイデアに感服しきりです。最初からライバルで、1年間ずっと火花を散らしていると飽きてしまいますし、仲良しから次第にあつれきが生まれ…という形の方がハラハラワクワクしますものね。


-そうですね。


 「圧強めの先輩と、苦笑いしながら話を聞いてくれる後輩」的な2人の関係が、どう変化していくのか、まだ私にもわかりません。ただ、ききょうは藤原道長(柄本佑)のせいで大変な目に遭うことが多いので、そこにも道長がかかわってくるのかなと。でも、私としては最終回まで生き残りたいですし、できるだけ仲良くしていたいです(笑)。


-幅広い年代を演じる上で、意識していることは?


 加齢表現は意識しています。メイクさんと相談しながら、顔の印象もシーンに応じて、キリッと見えるようにしたり、優しく見えるようにしたり…。年齢を重ねていくとききょうの穏やかな丸い部分と逆に尖った部分が、今後はより明瞭に見えてくるのかなと。反対にまひろは、これからどんどんキリッとしていくと思います。そういった加齢表現も含め、心情の変化を複合的に追っていくと、演じている皆さんの“すごみ”みたいなものが、より見えてくるのではないでしょうか。私も個人的に、それを毎回楽しみにしています。まひろと道長、まひろとききょうの変わりゆく関係性にもぜひ注目してください。


(取材・文/井上健一)