そして森田さんのもとに、まさにひと筋の光が差し込みます。
「ある日、外皮だけのパンが、窓から入ってきた光で透けて、輝いているように見えたんです。そのとき『これ、もしかして、ランプになるんじゃないか?』とひらめきました。パンがランプになっていれば、大好きなパンがいつでもそばに置いていられますから」。
森田さんのハートにスイッチが入りました。それ以来、学科の先生に相談しながらデザインを考えたり、アルバイト先のパン屋さんの理解を得て、お店でパンプシェード用のパンを焼くなど、次第にプロジェクトとして発酵し始めたのです。
「はじめは電気スタンドのシェードをパンで強引に包んだり、コンセントがつながっている白熱球を押し込んだりといった稚拙なものでした。パンが白熱球で温められて熱を帯びてくると、だんだんいい香りがしてくるんです。はじめは『これ、いけるんちゃう?』と喜んでいたのですが、しまいには焦げてしまうんです。そういった危険なもので、まだとうていお売りできるような作品ではなかったですね」。
はじめはそんな前衛的すぎるアート作品だったパンプシェード。のちに、電子工学を専攻し、ロボットを作っている学生たちと出会い、アドバイスを受けたことで製品として飛躍的な向上を見せることに。
「電圧や電流の計算など電化製品としての基礎的なことを学び、『もっとレベルの高いものにしよう』という意欲が湧きました」。
そうして苦心の末にできあがったパンプシェードを京都の百万遍の手作り市でなど販売をするようになり、ウワサがウワサを呼び、さまざまな雑貨店から声がかかるようになったといいます。
こうして、いよいよ本格拠点を得て新たな一歩を踏み出した「モリタ製パン所」の、次なる一手は?
「次は時計です。サルバドール・ダリの『柔らかい時計』からヒントを得て、ナンを時計にしてみました。緩やかな、柔らかな時間を過ごしてほしいという想いをこめて、あえて文字盤をつけていません。そんなユル時計なんです」。
一瞬、何時なのかわからないから、つけた名前は「今ナン時?」。
もちろん、ナンも本物を使っています。
このようにパンの、食べるだけではないチャーミングな魅力を知らしめようと努める森田さん。いつかパンが雑貨や日用品としてとらえられる時代が来るかもしれません。「人はパンのみにて生くるにあらず」という格言がありますが、この言葉を借りるなら、これからは「パンを食べるのみにて生くるにあらず」ですね。
▼パンプシェードを購入できるイベント
7月11(金)〜18日(金)東急ハンズ京都店 1Fにて販売。
7月19(土)・20(日)東京ビッグサイト「Hand Made in Japan Fes2014」にて販売。
▼パンプシェード 取り扱い店
「amorico」(東京渋谷ヒカリエShinQs)
「kara-S」(京都 COCON KARASUMA)
「スタンダードブックストア心斎橋店」(大阪心斎橋)
※各店、売り切れの場合もございます。来店前に電話で確認してください。