ランプ作りで特に難しいのがクロワッサン。層をなす外皮がもろいため、中身をくりぬくときも、樹脂コーティングする際も、いともたやすく崩れてしまいます。クロワッサンがランプとして無事に仕上がる確率は低く、たいへんレアな商品と言えます。もちろん失敗したクロワッサンはすべて食べるので、ダイエットも並行して行わねばなりません。
最後に特殊なマット加工をほどこし、元のパンの姿に戻します。この加工によって、まるで焼きたてのようにおいしそうになるのですが、ここは残念ながら企業秘密。
では森田さんはなぜ、これほどの手間暇をかけてパンプシェード作ろうと考えたのでしょう。
森田さんは京都市立芸術大学版画学科のご出身。下宿先から一番近かったという理由で、いまはなき京都の小さなパン屋さん「ボンフール」でアルバイトをすることに。それがパンとの出会い。
「はじめは販売スタッフだったんですけれど、次第に窯で焼く仕事もやらせてもらえるようになりました。そこでパンの魅力にとりつかれたんです。イースト菌って生き物だから、環境によって姿かたちが変わるんですよ。発酵による生地の変化、焼くタイミングで見た目も味も変わる繊細さ、そんな有機的な部分に惹かれ、『これは思っていたより深くて広い世界だぞ』と思ったんです。
結局、大学にいた5年間、ずっとこのパン屋さんでアルバイトをしていました。将来の進路に悩んで一年間休学したんですけれど、その間もパン屋さんのバイトだけはやめなかったですね。それくらいパンに夢中になっていました」。
パンが持つ深奥な魅力を知った森田さんは、やがて、パンをもっと暮らしに採り入れられないか、すなわち照明器具として使えないかと考えるようになりました。
「愛おしいパンが、売れ残ったからといって廃棄されるのが耐えられなかったんです。パンを持って帰って、大学でクラスメイトに配ったりしていたんですが、日によってはそれでも余るんです。なので次第に部屋に飾るようになりました。フランスパンを花瓶に活けたり、インテリアとして置くようになったんです。パンってちゃんと乾燥させれば腐ったりカビたりしないんです。それにパンって見た目がカワイイから、部屋にあるとテンションが上がるんですよ」。