映画『火口のふたり』でキネマ旬報主演女優賞やヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞、大河ドラマ「光る君へ」では源明子を演じて注目を集めるなど、その高い演技力に定評がある瀧内公美。9月6日から開幕するシス・カンパニー公演 日本文学シアターVol.7「夫婦パラダイス~街の灯はそこに~」では、尾上松也が演じる柳吉と駆け落ちする蝶子を演じる。
日本文学シアターは、劇作家・北村想と演出・寺十吾が、さまざまな日本文学の世界をモチーフに、斬新な発想を加えて作り上げるシリーズ。今回は織田作之助の代表作「夫婦善哉」をモチーフに、柳吉と蝶子を中心とした新たな人間模様を描く。瀧内に公演への意気込みや役作りについてなどを聞いた。
-本作の脚本を最初に読んだときの感想を聞かせてください。
私は、北村想さんと寺十吾さんがタッグを組んだ「奇蹟―miracle one‐way ticket―」に出演させていただいたので、想さんの脚本はこれまでに1度、経験があるのですが、今作もとても不思議で、面白い脚本だなと思いました。というのも、想さんの脚本は哲学的な表現や難解な言い回しも多く、私が普段考えたこともない分野のことが書かれているので、調べ物をしながら読み進めていくことが多いんです。今回は、そうした要素もありながら、心が温かくなるおとなのお伽話のような作品だなと感じました。
-今回は主人公のカップルの蝶子を演じます。脚本を読んでいると、せりふを話す瀧内さんの姿が容易に思い浮かぶほど、ぴったりだと感じました。
本当ですか!? うれしいです。それを大きく書いておいてください(笑)。
-瀧内さんご自身は、蝶子という役柄についてどのように感じていますか。
モチーフとしている『夫婦善哉』の蝶子のイメージが強かったので、どうしようもない旦那さんを引っ張っていく、しっかり者という印象でしたが、脚本を読んでいくと、そうした部分がありつつも、それだけではないと感じました。今回の柳吉さんはすごく頭が切れる方なので、柳吉さんに引っ張ってもらうところもあり、かわいらしさもある女性だと思います。
-柳吉と蝶子のカップルについてはいかがですか。
付かず離れずな感じがすてきだなと思います。ただ、今回は、一緒のシーンがそれほどないんです。離れている時間が多いですが、やっぱりこの人じゃなきゃダメなんだと、そういうカップル感が出せればいいなと思います。
-これからの稽古に向けて、楽しみにしていることは?
共演者の方々が皆さん芸達者ですので、一緒にお芝居ができるのが何よりも楽しみです。
-柳吉を演じる松也さんの印象は?
昨年、(松也が石川五ェ門を演じた)新作歌舞伎「流白浪燦星(ルパン三世)」と今年の新春浅草歌舞伎を拝見させていただいたのですが、その中で水の仕掛けがあるシーンがありまして、八百屋舞台を駆け上がっていく姿を拝見して、おののきました。身体能力がすばらしいですよね。それに、声にすごく厚みがあって、花も実もあるすごい役者さんだなと、私が言うのもおこがましい話ですが思いました。歌舞伎はもちろん、現代劇まで幅広く演じられる方という印象があります。今回は、お相手役を務めさせていただくので、とにかく必死についていこうと思っています。
-ところで、瀧内さんは映像作品でもご活躍されていますが、映像、舞台それぞれのお芝居の面白さはどんなところにあると思いますか。
やっぱり(舞台は)生ものなので、毎日違うというところが面白いです。お客さまも毎日違うので、その日によって反応も違いますし、反応していただけることで私たちの気付きにもなります。毎日、お勉強をしている気持ちです。そして、映像では、普通に会話している声でも伝わりますが、舞台ではこの大きさの声では絶対に伝わらないです。なので、声や体の使い方も変わります。そういう意味でも、全身を見られているという意識を持って演じなければいけないと思います。
映像は、私たちのお芝居に監督の視点が入って、どこを見せていくのかを編集作業で決めていきます。一方で、舞台ではどこを見るのか、どこにフォーカスを当てるのかはお客さまの自由。それもまた違いだと感じています。
-本番前のルーティンなど、舞台に出演されるときに意識していることはありますか。
劇場に入る前には必ず、運動をしています。劇場でも声を出したり、瞑想(めいそう)のようなことをしていますね。そうすることで集中できますし、役や世界に入っていくことができるんです。それから、あとは好きなものを好きなだけ食べる。体はなるべく冷やさないですかね。
-それは舞台のときだけで、映像の撮影ではやらないんですか。
映像のときはやらないです。映像の撮影現場には、私はあまりカチカチに決めないでいくようにしています。フワッと入っていくというイメージです。現場によってスタッフさんも変わっていくので、まずは、その現場の空気感に体をなじませるというのが、私のやり方です。撮影1日目は、ただ歩くだけというような、軽いシーンを撮ることが多いんですよ。なので、そこからだんだんと作り上げていって、最終的には無理なくそこにいられる状態にします。舞台は、本番までに作り上げたものがありますし、最初から最後まで必ず毎日演じなければいけないので、体は作っておくためにもルーティンが必要です。
-役作りという意味でも変わりますか。例えば、映像の方がより空気感を大事にされるとか?
空気感はすごく大事にしますね、映像のときは。それから、どれだけ一人で準備する時間が持てるかどうかが、私にはすごく大事になります。舞台では、みんなで作っていけますし、みんなの意見を伺える時間がありますので、そこは違いますね。
-では、瀧内さんにとっての理想の俳優像とは?
私たちの仕事は、基本的にオファーをいただいてお仕事ができるものなので、いただいたお仕事を一生懸命にやることだと思います。一生懸命にやるというのは当たり前のことではありますが、とにかく一生懸命にやることで、また次の作品につながっていくのだと思います。人との出会いを大切にして、遅刻はしない(笑)。「時は金なり」ですので。
-大河ドラマ「光る君へ」では、源明子を演じ、大きな反響を呼びました。そうした反響を受けて変化はありましたか。
多くの方に見ていただいたことを実感しました。私は、単館系の映画からキャリアがスタートしているので、東京などの都市部でのみ上映される作品に参加することが多かったのですが、大河ドラマは全国の皆さまに見ていただくことができる。ですので、地元に帰ったときに、お世話になったおじいちゃんやおばあちゃん、両親のご友人などにも声をかけていただいて、とてもうれしかったです。母からも「本当にうれしかった」と言ってもらえたので、少しは親孝行できたのかなと思います。
-そうしたドラマで瀧内さんの演技を知った方が舞台に足を運んで、新たな瀧内さんの一面が知られたらいいですよね。
呪詛はしないので、ぜひ安心して見に来ていただきたいです(笑)。(「光る君へ」に藤原兼家役で出演した)段田(安則)さんも本作に出演されるので大河ドラマをきっかけに劇場に足を運んでくださるお客さまがいらしたら、「またあの人、殺しちゃうのかな」とイメージしてしまうかもしれませんが(笑)、今回は笑って楽しんでいただける、心温まる不思議なお話です!
-どんなところに注目して見てもらいたいですか。
今回は、大阪を舞台にしているので、関西弁に挑戦させていただきます。とってもこわいですね(笑)。不安もありますが、芸達者な方が集まっていますので、ものすごく面白い舞台が作れるのではないかと思います。私はついていくのに必死になりそうですが(笑)皆さん、余裕がある方ばかりで、どんなアドリブが飛んでくるのか。おとなの御伽噺、お楽しみいただければと思います。
(取材・文・写真/嶋田真己)
シス・カンパニー公演 日本文学シアターVol.7「夫婦パラダイス~街の灯はそこに~」は、9月6日~19日に都内・紀伊國屋ホールほか、愛知、大阪で上演。