北香那(スタイリスト:扇野涼子/ヘアメーク:内藤茉邑) (C)エンタメOVO

 配達員の丸子(高橋文哉)は、「次々と人が消える」とうわさされるいわくつきのマンションに毎日のように出入りするうちに、怪しげな住人の秘密を知ってしまう。伏線を張りめぐらせた予測不能な展開で描く、水野格監督による“先読み不可能”ミステリー・エンターテインメント映画『あの人が消えた』が9月20日から全国公開される。本作で、マンションの住人の一人であるウェブ小説家の小宮を演じた北香那に話を聞いた。


-この映画については、ネタバレにならないように聞くのも難しいのですが、北さんもどこまで話したらいいのかという…。


 そうなんですよ。とても難しいです(笑)。


-では、最初に脚本を読んだ印象から。


 ちょっと笑いのジャブが入っている感じがあったので、コメディーなんだという認識で読んでいくと、あれ?みたいな感じになってきて、どういうことだろうと思って読み進めていったらまさかの展開で…。最後の仕掛けも全く読めなかったです。すごくびっくりして、これが映像になるんだと思ったらワクワクしました。しかもそれを私が演じられるというのがうれしかったです。


-ウェブ小説家の小宮をどういうキャラクターだと解釈して演じましたか。


 こういう人だというのはなくて、どれだけフラットでいられるかを強く考えたかもしれません。あまり決め過ぎてやると、多分自分の中でも混乱してくると思ったのですごく難しかったです。この人の奥行きが分からないというか、この人はどんな人なんだろうみたいなことを意識しました。ちょっと謎というか、何を考えているんだろうという感じですね。だからあまり生活感が見えない人というのは意識したかもしれないです。


-北さんが、周りの人にこの映画のことを説明するとしたら?


 それができなかったんです。予告を見て「ホラーなの? ホラーは苦手なんだけど私でも見られるかな」みたいなことを言われて、でも説明するとネタバレになるので、「大丈夫だと思うよ…」とだけ言いました。


-撮影中の印象的なエピソードがあれば。


 (高橋)文哉くんが、キャストとスタッフ80人分の牛丼を作ってくれて、マンションの地下駐車場でみんなで食べたんですけど、それがめちゃくちゃおいしくて。何杯もおかわりをしました。牛丼が輪を広げてくれた感じがします。忘れられないですね。

-水野監督の演出で印象に残ったことは。


 コメディーはコメディーだと思ってやると笑えないということを教えていただきました。「コメディーの要素があるせりふを真面目に言ってみて。それが面白いんだよ」と。それはすごく勉強になりました。私はどうしても笑わせようとするので、そういうのが少し余計だったりもするんだなと気付きました。逆にコメディーっぽくしない方が笑えたりするんですよね。


-役作りはどのように。


 私が今まで演じてきた役は、明るいものにしても暗いものにしても、すごく特徴があったんです。だから、会ったことがある誰かを参考にしているところがありました。「こんな人いたよな」という感じで、ちょっと物まねに近い形で芝居をするというか、役作りをする。そこに自分のスパイスを加えていく作業をしていきました。でも、小宮の場合は参考にする人がいなかったんです。なので、今回は不思議な感じで、何を考えているのか分からない。ちょっと怪しくもあるみたいに演じました。


-高橋文哉さん、染谷将太さん、田中圭さん、共演した皆さんの印象は。


 文哉くんは、撮影中はすごく少年っぽい感じがして、かわいい男の子というイメージだったんです。でも、映画が終わってから、すごく色気が増して大人になったなと思いました。田中圭さんはムードメーカーです。圭さんがいると現場がすごく明るくなるし、お話がお上手だし、楽しいです。染谷さんは、すごく言葉選びが丁寧で、分からないことを教えてくれそうな、頼れる感じの方。それぞれキャラクターが違っていて楽しかったです。


-最近は、『春画先生』(23)や大河ドラマ「どうする家康」(23)などでいろんな役を演じていますが、その中でもこの映画は他とは違う感じでしたか。


 役作りというか、役への寄り添い方が違ったかもしれないです。あまり考え過ぎずに演じたところはあるかもしれません。今までのようなアプローチの仕方だと多分ややこしくなるんです。この映画で私が演じた役って。もっと言いたいけれど、ネタバレになるので言えませんが(笑)。いろいろな役作りができて楽しくて、ワクワク感があったことが新しかったのかもしれないです。でも、いろいろやったことは言えないんですよね。だからもどかしいです。


-では最後に観客に向けて一言お願いします。


 この映画は、一度見ただけでは分からないと思います。隅々までじっくりと見て理解する。何度も見ることで面白さが増すと思います。こんなところにこんなヒントあったんだみたいに。何回も繰り返して見て、いろんなことに気付いて楽しんでほしいです。


(取材・文・写真/田中雄二)