見えてきた変化
「面会交流が終わって息子が帰宅すると、『お母さんにお土産って、お父さんと買ったの』とドーナツの箱を持っていたり、私が好きなコーヒー豆を持ってきたり、元夫が用意したものだとわかりました。
以前はなかったことで、私への気遣いをなぜ思いついたのかは、今もわかりません」
LINEで送られてくるメッセージも、「お疲れさん」「ケーキを持たせたから」など、労りのような言葉が増えていました。
音楽会があった夜は、「あの子、集中してリコーダーを吹いていたな」とメッセージが飛んできて、別々の場所で見ていたけれど息子の様子を共有できることは、敦子さんにとって
「複雑な心境ではあるけれど、一緒に見守ってくれる安心感は、確かにありました。
何より息子が元夫が学校に来るのを喜んでいて、家での様子を伝えると『よかった』と返事が来るのも、穏やかな気持ちにはなりましたね……」
と、以前ほどストレスを感じなくなっていたそうです。
だからといって元夫と個人的に仲良くしようとまでは思わず、「あくまでも息子のことを中心に話す」のは、ふたりとも同じでした。
以前は、面会交流のときに「元夫が私の悪口を息子に吹き込むのでは」と胃が痛くなるほど心配していましたが、そんな様子はまったく見えないこと、息子が「三人でご飯を食べようよ」と笑顔で言ってくる様子からも、元夫のほうも精神状態は落ち着いていることは、伝わっていました。
「これから」への葛藤
「元夫から、私の誕生日に『もし嫌じゃなかったら、三人で焼肉でも行こう』とメッセージが来たときは、『気持ちはありがたいけれど、遠慮しておく』と返しました。
三人で食事は私にはまだ無理で、元夫がどんな意図で誘ってくるのかもわからないし、あまり近付きたくはないのですよね……」
元夫の変化は、家庭裁判所での調停のときに、「たかが遊びで浮気とは言えない」と初回で言い切った様子とは、まったく違っていると敦子さんは感じています。
いざ離婚が決定して自分や息子と離れて暮らすことになり、その寂しさから「丸くなっていったのかも」というのが敦子さんの想像ですが、だからといって浮気を許す気持ちも生まれません。
「冷静になって思い出してみたら、元夫は自分の浮気について私に一言も謝罪していなくて。離婚の原因になったそれを飛ばして別れてから仲良くなんて、やっぱり無理です」
と、安心感を覚えながらもこの事実を思い出すとまた気持ちがふさぐのが、敦子さんの状態です。
月に二回の面会交流を楽しみにしている息子は元気で元夫との仲も順調、それは感謝するけれど、「私との関係はまた別ですよね」と、関わり方については悩みがあります。
お土産を買ってくれたり気遣う言葉があったり、そんな元夫の変化に「あまり頑なになっても駄目だ」と思う一方で、「これから自分たちはどんな関係になっていくのかと、不安があります。
息子が元夫にどんどん取り込まれて、そのうちまた一緒に暮らしたいとか言い出さないか、逆に元夫がまた昔のような自分勝手な人間に戻るのではないか、やっぱり信用はできません」
息子のためなら、と流されるまま状況が変わっていくのを受け入れてきた敦子さんは、いつかどこかでこの状況にストップをかけないといけないのではと、葛藤を抱えています。
「息子がいなければ、きっとこうはならずにさっさと赤の他人に戻っているはずです」
子どもを介して元夫と距離が近くなっていく現実にどう向き合うか、敦子さん自身の生き方の姿勢が、問われているといえます。
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子どもがいる場合、離婚は成立しても面会交流があるために元配偶者とのつながりがなかなか切れないのは、よくある話です。
今回のケースでは、元配偶者のほうに前向きな変化があり、それを歓迎できるかどうかが問題。
「何のために離婚したのか」、つながりが続くなかで自分自身が納得できる関わり方を見つけていくことが、悔いのない第二の人生を歩むために大切といえます。