日本の先生方の要望から日本語版出版が実現! デマ、無知、誤情報、思い込み、陰謀論、認知バイアス、不勉強、フェイクニュースから身を守り、わかりあえない誰かともよりよい議論をするために、必携の書。




株式会社河出書房新社(本社:東京都新宿区 代表取締役:小野寺優)は、『世界一クールな気候変動入門:情報を正しく判断するために』(原題 Cranky Uncle vs. Climate Change)を、2024年10月29日に発売します。

「地球温暖化はでっちあげだ!」、「何もしなくていい」、「デタラメを言うからだ!」、「そんなものはない」、「ワシのせいじゃない」と主張する、クセ強めおじさんが目の前にいたとき、わたしたちは説得を試みるでしょうか? それとも諦めるでしょうか?

陰謀論やフェイクニュースにとらわれ、都合のよい情報しか認めない人はどこにでもいるものですが、気づかずに自分自身もその罠に陥っている可能性があります。例えば、トランプ前米大統領は気候変動を「デマ」と主張する一方、ハリス米副大統領は「人類存亡の危機」と言うように、米国で気候変動が国を二分する対立をもたらしていることは象徴的かつ深刻な事態です。そしてインターネットやSNSが多くの人にとって大きな情報源である現在、誤情報や陰謀論、フェイクニュースはもっとも流布しやすいテーマであり、これらは氾濫して拡散し、社会問題化しています。

わたしたちヒトの脳は、狩猟採集民として生きた過去数百万年のあいだ、目の前の危機に対応するべく進化し、生き延びてきました。そのため現代に生きるわたしたちも、ヒトの一生を超えるような長いスケールの現象や、地球規模で起こる危険に対応することに不慣れな生き物です。問題を棚上げし避けていくような現実逃避や、不確かな情報を安易に信じ込みやすいわたしたちですが、真実を直視し、正しい情報を元に科学的に考えていくことが求められています。

本書『世界一クールな気候変動入門』は、都合のわるい情報は全て否定する科学否定派の「困ったおじさん」を狂言まわしにして、わたしたちの脳がたやすくデマを信じ込んでしまうしくみと、人心操作をおこなう側の巧妙なトリックを紹介します。そして、これらの害悪から自らの身を守り、今後よりよい議論をしていくために必要な科学的思考力を鍛える書籍です。気候変動の基礎知識も盛り込みながら、マンガをまじえてコメディタッチに展開していきます。

■科学的知見や科学的コンセンサスを否定する“誤謬”のテクニック
本書では、デマ、無知、誤情報、思い込み、陰謀論、認知バイアス、不勉強、フェイクニュースのトリックで用いられる、チェリー・ピッキング、滑り坂論法、少数意見の誇張、人格否定、論理の飛躍など、わたしたちが陥りやすい“誤謬”のテクニックを、実例をもとに鮮やかにひもといていきます。これらのテクニックを読んでいくと、何人もの見知った人の顔が浮かぶはずです。

本書冒頭で、まずは“誤謬”のテクニックを5種類にまとめています。「ニセの専門家(Fake Experts)」、「誤った論理展開(Logical Fallacies)」、「ありえない期待(Impossible Expectations)」、「チェリーピッキング(Cherry Picking)」、「陰謀論(Conspiracy Theories)」の5種類で、アルファベットの頭文字をとって“FLICC”と略称します。これらから派生する“誤謬”のテクニックの数々をピクトグラムで一覧としてまとめており、取り上げている実例の中に掲載していますので、本書を読み進めていく際の助けになると同時に、テクニック同士を比較・検証するのにも役立ちます。




また、科学否定派に対するダニエル・カーネマン(行動経済学者)、ナオミ・オレスケス(科学哲学家)、マイケル・マン(気候科学者)らの示唆に富んだコメントも折々に差し込まれることで、理解の補助線となり、政治や社会、身の回りの問題を考える際にも役に立つ入門書が完成しました。

■日本語版の訳者陣について
日本語版出版については、本書が、高等学校の理科教育で今後教えるべき要素である「科学技術に関するコミュニケーション能力」、「疑似科学やニセ情報を見抜く能力」、「情報を取捨選択できる能力」、「科学的な考えにそってリスクに対応できる能力」、「知識や経験を使った分析能力、批判・評価能力」の能力向上につながることから、理科教育の研究に携わる先生方から出版企画をご提案いただきました。
これを受けて日本語版監修・翻訳は、科学教育に携わる研究者陣が主導。読みやすさに加え、日本の読者に必要な解説・情報を追加した完成度の高い仕上がりとなりました。

[日本語版監訳]
加納安彦氏(名古屋大学環境医学研究所 未来の医学研究センター助教。専門は科学教育、健康教育)
[日本語版翻訳]
縣秀彦氏(国立天文台准教授、国際天文学連合(IAU)国際普及室スーパーバイザー、総合研究大学院大学准教授)/海部健三氏(中央大学法学部教授。生物学、科学論、環境科学)/鴈野重之氏(九州産業大学理工学部准教授。天文学、天文教育)/小西一也氏(浅野中学・高等学校教諭)/小林玲子氏(翻訳家)

■本文より

P.10-11「本書で紹介する「誤謬」のまとめ」


P.18-19「気候変動:人間心理のスケールを超えた問題」


P.32-22「科学否定論の特徴」


P.116-117「海洋の酸性化」


■本文掲載「日本語版読者のみなさんへ」全文
 科学者が長年にわたって実験や観測を続けてきた結果、数十年から数百年という長い期間で見たときの天気の変化=気候について、近年は極端な現象が明らかに増えていて、その原因が、地球の温暖化にあることがわかりました。こうした現象は決して自然に起こっていることではなく、私たち人間の活動、つまり食糧や工業製品をつくったり、電気などのエネルギーを得たりするために排出した二酸化炭素などが原因となっているのです。
 この本のテーマは、気候変動や地球温暖化の現実やしくみです。取り上げた内容は、気候について研究している多くの専門家(気候科学者)のほとんどが一致しています。多くの専門家の考えが一致していることを、科学的な知見についての合意が得られている=科学的コンセンサスがあるといいます。現時点で最も新しい合意は、2021~2022年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という国際的な団体が報告した内容で、20ページで簡単に説明します。
 でも、中にはそれらを否定する人たちがいます。例えば、気候は変動していないとか、地球の温暖化の原因は人間活動ではないとかいう主張です。温暖化を防ぐための政策は効果がない、気候科学は信用できないという意見もあります。この本は、もともと「Cranky Uncle vs. Climate Change」(困ったおじさん vs 気候変動)というタイトルで、2020年にアメリカで出版されました。それは、こうした主張をする人たちの影響力が、特にアメリカで強いからです。そして、その影響は日本にも及んでいます。
 この本の中では、科学的なコンセンサスを否定する人(困ったおじさん)が、どんな間違った考えを持ち、誤った情報(=誤情報)を広げているのか、一つ一つ取り上げ、それらがなぜおかしいのか、どのように誤っているのかをひもといていきます。誤った情報に含まれている説明の仕方のまちがいを誤謬と言います。初めて聞いた言葉だと思いますが、これを機会に覚えてください。誤謬にはたくさんの種類がありますが、本の中では「ニセの専門家」、「誤った解釈」、「ありえない期待」、「チェリーピッキング」、そして「陰謀論」の5種類にまとめました。
 2020年から新型コロナが流行した中で、科学的な知見を無視した予防法や治療法、ワクチン接種についての間違った情報がたくさんありました。「これか?」と思い浮うかぶことがあると思います。この本を学ぶことで、科学的なコンセンサスを否定する人たちが広める誤情報に共通する誤謬を予め知っておくことができます。そうすれば、誤情報に対する免疫を付けることができ、実際に接したときに見抜くことができるようになります。政治や社会、身のまわりの問題を考える上でも、皆さんを助けてくれるはずです。
 今後は、誤った情報による影響を受ける可能性がますます高くなると考えられます。そこで、この本は10代の方々に特に読んでほしいと思っています。間違った情報を無批判に受け入れて慣れてしまうと、そもそも真実を見抜けなくなってしまいます。また、たとえ正しいことを知っていても、自分の考えに自信が持てなくなるかもしれません。その結果、皆さん自身が生活や仕事で不利益を被ることになり、ひいては社会全体を損なうことにもなりかねません。ときには、この本に出てくる困ったおじさんと出会うことがあるかもしれません。そのときには、この本で学んだことを使って話すと、わかり合えることがあると思います。多くの人たちが、誤った情報に惑わされることなく正しく考えられるようになれば、そして、少しでも行動を起こせば、きっと気候変動問題も解決に向かい、私たちの社会がよりよい方向に進んでいくものと信じています。

■目次
〈科学的知見〉〈誤情報〉〈誤謬〉のまとめ/「気候変動なんてあり得ない」って、なぜ思うんだろう?

Chapter.1 気候変動問題はいかにして、かくも大きな議論になっているのか?
気候変動:完全な心理的混乱/気候変動の科学的コンセンサス/政界と産業界の同盟が育てた否定論/石油業界が知っていたことVSやってきたこと/「科学」を疑わせる:タバコ業界のマニュアル/もし一国のリーダーが「気候コミュニケーター」だったら/科学否定論の特徴/否定する人々が考える「地球温暖化捏造論」を想像してみた/気候変動否定派の「3つの段階」

Chapter.2 事実を否定する
温暖化のサインはこれだけある/1秒当たり、原子爆弾4個分の温暖化/気温が下がる=太陽は存在しない?/地球は「頭が薄うすく」なってきている/溶ける氷河/史上最悪のおとり商法、グリーンランド/南極の海氷と陸の氷床をごっちゃにする/海面水位上昇の「ゴールポスト」を動かす/太陽に罪はなすりつけられない

Chapter.3 責任を否定する
地球温暖化は人間が原因/傑作科学推理小説『地球温暖化事件』/キーリング曲線はなぜギザギザなのか?/人間が崩した自然界のバランス/ゲップ大会の優勝者は?/ワナダ!/3ステップで理解する温室効果/気候科学の歴史/わずかな量でも効果は絶大/それでも温室効果はたいしたことがない?/地球温暖化の誤情報はどうやって生まれたのか/水蒸気はアンプ。音量調整のつまみではない/気候と太陽の活動は逆行している/太陽系の中でも地球だけ/過去は警告する。気候は「めんどうな獣」!/気候と二酸化炭素:温暖化への正のフィードバック/人間の活動以外には考えられない

Chapter.4 環境への影響を否定する
気候変動は社会のほぼすべてに悪影響/気候が極端化している!/熱波がより強く、より頻繁に/ハリケーンの威力が強くなっている/植物には栄養素も水も必要/二酸化炭素は深刻な汚染物質/ホッキョクグマの未来は海氷しだい/海洋酸性化:地球温暖化との邪悪な双子/「フィードバック」でごまかしてはダメ!/生物は気候変動についていけない

Chapter.5 科学を否定する
科学を守るために/ガリレオvs教会──科学の敵はどっち?/本当の人騒がせは誰だれだ?/たとえ不確実でも、問題があるのは確か/97%の科学的コンセンサスというコンセンサス/否定派が作った「コンセンサスのギャップ」/ホッケースティックは折れていない/中世返りする否定派/気候モデルは強い味方/1970年代、科学者たちは何を予測していたのか?/天気と気候はどう違ちがう?/Eメール流出事件と陰謀論者の頭の中/陰謀論者って、こんな人たち/「マイケルのトリック」と「減退の隠蔽」

Chapter.6 科学否定論にどう向き合うか
困ったおじさんの考えは変えられるか?/気候変動の否定派は少数。でも声が大きい/なぜ、誤った情報を無視してはいけないか/予防接種は気候変動否定派根絶のカギ/科学コミュニケーションの3法則/沈黙の連鎖を断ち切る/科学者と否定派のあいだに立つ「誠実な仲介者」になろう/私たちの行動と発言には意味がある

■著者紹介
ジョン・クック(John Cook)
オーストラリア・クイーンズランド大学で物理学の優等学位を取得。学位の取得中、物理学のノートの余白に漫画を描いていた。卒業後は漫画家、グラフィックデザイナーとして過ごすも科学から遠く離れることはなく、余暇には気候研究の資料を読んだり、誤った情報を暴いたりすることに費やす。
2007年、Skepticalscience.comを設立。科学の否定に対抗する方法を模索し始め、誤情報の認知心理学に関する博士号を取得。否定のテクニックを説明することが、誤った情報を中和するための鍵であり、並行して議論することが、それを実践する強力な方法であると発見。これを機に2つのキャリアを結びつけ、漫画の形で並行した議論を用いて科学否定のテクニックを説明することになる。現在はジョージ・メイソン大学気候変動コミュニケーションの研究助教授として、批判的思考を用いて誤情報に対抗する研究を行い、フェイクニュースや誤情報との戦いに尽力している。

■日本語版監訳者紹介
加納安彦(かのう・やすひこ)
名古屋大学環境医学研究所 MIRAIC-未来の医学研究センター助教。専門は科学教育、健康教育で、健康や食品に関する問題を中心に、疑似科学あるいは科学的誤情報の実態と対策を研究。進展著しい海外の誤情報研究を丹念に追っている。名古屋大学理学部卒業、大阪大学大学院理学研究科博士課程中退。博士(医学)。関連する研究に「健康にかかわる疑似科学的言説の浸透~医療系学生に対するアンケート調査から~」(科学教育研究、2023)などがある。

■日本語版訳者紹介
縣 秀彦(国立天文台准教授、国際天文学連合(IAU)国際普及室スーパーバイザー、総合研究大学院大学准教授)
海部健三(中央大学法学部教授。生物学、科学論、環境科学)
鴈野重之(九州産業大学理工学部准教授。天文学、天文教育)
小西一也(浅野中学・高等学校教諭)
小林玲子(翻訳家。ビジュアル児童書を中心に活躍)

■書誌情報
書名:世界一クールな気候変動入門
副題:情報を正しく判断するために
著者:ジョン・クック
日本語版監訳:加納安彦
訳者:縣秀彦/海部健三/鴈野重之/小西一也/小林玲子
仕様:A4変型判/並製/176ページ/オールカラー
初版発売日:2024年10月29日
定価:3190円(本体2900円)
対象年齢:中学生以上
ISBN:978-4-309-23163-1
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309231631/
装幀:渋井史生
出版社:河出書房新社





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