野球、サッカー、格闘技などをテーマにしたスポーツ漫画には、実際にありそうな展開を盛り込んだ作品があれば、とんでもない必殺技やら修業やらが出てくる作品もある。麻雀漫画も似たようなところがある。麻雀卓を囲む人達の心理を緻密に説明しながら、ツモ、捨て牌、和了り(あがり)などの闘牌(とうはい、とうぱい:麻雀で競う様子を闘いに模した表現)シーンを事細かに描写する麻雀漫画がある。その一方で、「こうなったら麻雀で勝負だ!」とばかりに何が何でも麻雀に結び付ける。その麻雀でも、めったに出ない和了りや、麻雀を打つ人達が叫びまくったり動き回ったりするなど、荒唐無稽な麻雀漫画もある。言うなれば麻雀ギャグ漫画や麻雀アクション漫画なのだが、馬鹿馬鹿しいと思いながらもある種の爽快感があり、常に一定の作品数を維持している。


小泉ジュンイチロー総理大臣が、日本を代表して幾多の困難を乗り越えていく漫画が『ムダヅモ無き改革』(大和田秀樹)だ。『小泉“純一郎”でしょう? それにムダヅモって何?』と思うかもしれない。

キャラクターの外見は、いくらか目が大きいものの、間違いなく小泉純一郎元総理大臣なのだが、漫画の中では小泉ジュンイチローとなっている。フィクションとして小泉ジュンイチロー総理大臣が日本を代表して幾多の困難を乗り越えていくのは、その手段が“麻雀”だからである。

漫画は小泉チルドレンの杉村タイゾーが、ブッシュジュニアに大敗したことから物語が始まる。もちろんどちらも実在の人物がモデルになっているのは言うまでもない。そこで真打ちとばかりに登場するのが、時の総理大臣である小泉ジュンイチローだ。小泉ジュンイチローとブッシュジュニアは、点F-15との法外なレートで勝負を行うことになる。麻雀に疎い人のために説明しておくと、点○○と表すのは、勝負後の精算を1000点いくらで行うことを意味する。つまり1000点でF-15の戦闘機一機分(現在約90億円、連載当時なら100億円超か)となるのだ。どれだけ並外れたレートか分かるだろうか。もちろん賭け事は禁止なのだが、そこは漫画の中の出来事として勘弁してもらうよりない。

ブッシュジュニアに勝利した小泉ジュンイチローは、その後もパパブッシュ、金将軍、ウラジーミル・プーチン大統領と次々登場する強敵を相手に、必殺技の国士無双十三面(ライジングサン)や麻雀牌の表面を指先で削り取る轟盲牌を駆使して戦っていく。そしてローマ教皇のベネディクト16世や第四帝国のアドルフ・ヒトラーまでもが登場するに至っては『ああ、もう何でもありなんだなぁ』と思わされる。なぜかと言えば、小泉ジュンイチローが人型ロボットのアシモと共に、ロケットで月へ向かい、そこで麻雀対決を行うからである。ワールドワイドとの表現があるが、スペースワイドまで広がった麻雀には、腹を抱えながらも付いていくしか無くなっていた。

最後に小泉ジュンイチローが勝利するのは、ヒーローものの王道と言えるが、見開き26ページ連続は、漫画界にあって空前絶後の表現ではないだろうか。これも麻雀漫画にこだわりのある竹書房だからできたことだと思う。いくらヒーロー漫画で見開きが効果的ではあっても、他の出版社や漫画雑誌では、ここまでのページ構成は不可能だろう。(と書くと、やるところが出てきてもおかしくないのが、日本の漫画界だが、果たして?)

しかし惜しい面もあった。漫画連載が行われたのが、2006年から2011年。小泉純一郎総理大臣が在任したのは、2001年から2006年である。掲載された「近代麻雀オリジナル」「近代麻雀」が月刊誌だから仕方ないとは言え、現実の政治動向に対して、連載はあまりにも展開が遅かった。総理大臣が安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、民主党が政権を取った後は、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦と移りながらも、漫画の中では小泉ジュンイチローが依然として頑張り続けていた。一応、漫画の中でも、安倍シンゾー、鳩山ユキヲ、菅ナヲトなど、後任の総理大臣が登場するが、完全に脇役であったり、むしろ日本を害するような行動すらとったりしている。かろうじて麻生タローがスナイパー総理として存在感を示したくらいだろう。2010年2月にオリジナルアニメのDVDが発売されている。漫画もDVDも展開が速ければ、より人気が出たのではないだろうか。

それでも1月27日に『ムダヅモ無き改革』コミックス7巻が発売される。通常版の他に小冊子のついた特装版もあるので要注意。また解説本の『ムダヅモ無き改革 麻雀外交全記録』も同時発売される。小泉ジュンイチローの活躍を一気に楽しんで欲しい。  

あがた・せい 約10年の証券会社勤務を経て、フリーライターへ転身。金融・投資関連からエンタメ・サブカルチャーと様々に活動している。漫画は少年誌、青年誌を中心に幅広く読む中で、4コマ誌に大きく興味あり。大作や名作のみならず、機会があれば迷作・珍作も紹介していきたい。