(C)2025「秒速5センチメートル」製作委員会

『秒速5センチメートル』(10月10日公開)


 1991年、春。東京の小学校で出会った遠野貴樹(上田悠斗)と転校生の篠原明里(白山乃愛)は、互いの孤独を癒やすかのように心を通わせていくが、卒業と同時に明里は栃木に引っ越してしまう。


 中学1年の冬。吹雪の夜に栃木・岩舟で再会を果たした2人は、雪の中に立つ桜の木の下で、2009年3月26日に同じ場所で再会することを約束する。


 時は流れ、2008年。東京でシステムエンジニアとして働く貴樹(松村北斗)は30歳を前に、自分の心が遠いあの日に取り残されたままであることに気付く。一方、明里(高畑充希)は、当時の思い出とともに静かに暮らしていた。


 『君の名は。』(16)『すずめの戸締まり』(22)の新海誠監督の同名アニメーション映画(07)を実写映画化。映像監督・写真家の奥山由之が監督をし、鈴木史子が脚本を担当。


 高校時代の貴樹を青木柚、貴樹に思いを寄せる高校の同級生を森七菜、貴樹の会社の同僚を木竜麻生が演じ、宮﨑あおい、吉岡秀隆が共演。主題歌は米津玄師の「1991」。


 少年と少女の純愛と時間と距離による隔たりの18年間を描いた恋愛物語。タイトルは、劇中で語られる「桜の花が舞い落ちるスピード」から取られた。新海監督のアニメーション版(約1時間の連作短編)の倍の時間をかけて話を広げ、同じ骨子の話を描いている。


 まるで挿入歌の「One more time one more chance」(山崎まさよし)ありきで作られたような、新海監督お得意のすれ違いの話。「いつでも捜しているよ。どっかに君の姿を(中略)こんなとこにいるはずもないのに」という歌詞ではないが、どちらかというと、男性の方が過去を引きずるロマンチストであり、女性の方が現実的なことがよく分かる。


 自分も映画を見ながら、遠い日の初恋の彼女は今どうしているのだろうなどと思わされ、ちょっと切なくなった。映像作家で写真家でもある監督の映画だけに、雪の岩舟や夏の種子島での風景描写の美しさが特に目を引く。

『ストロベリームーン 余命半年の恋』(10月17日公開)


 病弱な体のため、学校にも通えず毎日独りで家の中で過ごしてきた桜井萌(當真あみ)。彼女のひそかな夢は、自分の誕生日に好きな人と一緒に見ると永遠に結ばれるという、6月の満月 「ストロベリームーン」を見ることだった。


 15歳の冬、医師から余命が残りわずかであることを宣告された萌は、夢をかなえるために「運命の相手」を見つけようと心に決め、高校に通うことを決意する。


 入学式の日、萌は出会ったばかりの同級生・佐藤日向(齋藤潤)に突然告白し、人生初の「お付き合い」をスタートさせる。


 互いの距離を少しずつ縮めていく萌と日向は、萌の誕生日である6月4日に「ストロベリームーン」を見に行く。だが、その日を境に萌は学校から姿を消し、日向は萌と連絡が取れなくなってしまう。


 芥川なおの同名純愛小説を映画化。脚本・岡田惠和、監督・酒井麻衣。大人の日向を杉野遥亮、萌の両親役をユースケ・サンタマリアと田中麗奈が演じる。


 いわゆる“難病物”の一種だが、思ったほど暗くはない。というか、メルヘンの色が濃いのであまり生々しさが感じられないのだ。萌の行動も自分勝手なものに見えなくもないのだが、まあメルヘンだからいいかとなる。


 テレビドラマ「ちはやふる-めぐり-」でも共演した當真と齋藤がここでもみずみずしい個性を発揮しているのが救いだ。


(田中雄二)